表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/130

第一話 史上最強の魔法使い

「これで終わりよ!」


 一瞬の隙を突き、史上最強の魔法使い、スピア・ローズの放った攻撃魔法はついに標的である鎧の騎士を捉えた。


「ぐあああああああ!」


 放たれるは巨大な炎。


それは人が使える中で最強と呼ばれる魔法の一つ【竜の逆鱗】。


 呼び名の通り、竜が放ったかのような巨大な炎はありとあらゆる物を焼き尽くす。

 草や木、岩や鉄、あらゆる魔術から身を守る鎧や神の祝福を受けた人でさえも。


「ああああああああああ!」


 絶叫が周囲に響き渡るが、スピアは【竜の逆鱗】を抑える事はしない。

 普通の人間なら発動すら出来ず、仮に発動出来ても数秒で魔力を使い切るこの魔法をスピア・ローズは最大出力のまま放ち続ける。


「おおおおおおおおおお!」


 鎧の騎士が己の魔力を使い、炎を無理矢理吹き飛ばす…が、


「…逃がさない。」


 スピアの背後にいた小柄な少女、氷の女王ルーラ・アシルの言葉と共に、騎士の頭上から巨大な氷塊がいくつも降り、騎士に襲いかかる。


「くそ!」


 避けられないと判断した騎士が背負っていた大剣で一刀両断にしようと構えるが、


「足下がお留守ですわ!」


 今度は地面から無数の棘が隆起し、騎士の腹部を貫いた。


「がっ!」


 少し離れた場所から騎士を観察していた賢者アズサ・ソメヤの攻撃は絶妙と言うタイミングで騎士を狙っていた。


 ついに剣を落とした騎士は何とか棘から身体を引き抜くが、降り注ぐ氷塊から逃げる時間はなかった。


「うおおおおおおおお!」


 騎士は己の両腕に全ての力を使い、自分の倍以上はある氷塊を殴ろうと砕いていくが、


「…ぐっ!」


 すでに満身創痍の身体では氷塊を一つ壊すのが限界だった。


 続く氷塊をどうにか受け止めようとするが、身体は重量に耐えきれずどんどん固い地面に沈んでいく。


 『してやったり』とにやつくルーラの顔が騎士の目に入るが、


「油断するな!」


 最後の氷塊が落ちきったタイミングで今度は頭上から巨大な雷が騎士を貫いた。


 雷の戦士、ライデンの容赦ない一撃だった。


「あ…」


 騎士はついに崩れ落ち、地面に倒れた。




******


「やっと倒せた。」


「…やっぱり強かった。」


「人類を滅ぼそうとした悪なだけはありますわ。」


「私たちに掛かれば余裕だ。」


 かろうじて生きている騎士はどうにか逃げだそうと動こうとするが、


「っああああああ!」

 

 その両手両足に氷の剣が刺さり、地面に騎士を縫い付けた。


「…逃がすと思うの。」


 ルーラは騎士の右手の剣を両手で押さえ、地面にさらに深く騎士を縫い付ける。


「ああああああああああああああああ!」


 騎士の叫び声を尻目に、スピア、アズサ、ライデンは三人で何かを話していた。


「体中焼いて、炭にしてやろうよ。」


「それなら体中を穴だらけにしたほうが見せしめにはなりますわ。」


「いや、生かして連れ帰るのが任務だ。」


「…氷で固めればいい。私の氷はスピアじゃないと溶けない。」


 ルーラも会話に入り、議論はさらに白熱していく。


「おまえ、ら。何でこんな事を…」


 死にかけの騎士は四人に問いだした。

 周囲には何もない荒れ果てた焼け野原。

 だが、ここは数十分前まで平和な国だったのだ。

 小さくて貧しいが、王も貴族も平民も誰もが静かに穏やかに暮らしていた。騎士には幼なじみとの大事な約束があった。

 

 それがあまりにも短い時間で消し去られた。


 その騎士の問いかけ答えたのはスピア・ローズだった。


「私たちの師、ティア様がお前を嫌いだから。」


「…………………は?」


 痛みも忘れる程の衝撃だった。


「学生時代は仲の良い友人だったそうだけど、その才能に嫉妬し、ティア様に様々な嫌がらせをした。最後はティア様を学院から追い出し、王都にいられなくした!裏では世界を滅ぼす大それた計画があったみたいだけど、これで終わりよ。」


「…………………意味が分からない。」


 騎士から出たのは正直な言葉だった。


「私に嫌がらせをしたのはティアのほうだ!王都にいられなくなったのもあいつが人体実験を――――。」


「黙れっ!」


 スピアの言葉と共に炎が騎士の右手を焼いた。


「っああああああああ!」


 炎はゆっくりと残っていた右手の鎧を溶かし、騎士に苦痛を与えていく。


「お前ごときがティア様の名前を呼ぶな!お前ごときがティア様を語るな!」


 怒りの表情をあらわにしたスピアだが、ルーラがある事に気づき、慌てて声をかける。


「待ってスピア、氷が…!」


 ルーラが騎士に突き刺していた右手の氷の剣がスピアの炎によって、溶けきっていた。


「…うおおおおおおおおお!」


 騎士が最後の力で、炎で鎧も溶け、焼かれ、もはや感覚もなくなった右腕を地面に強く叩きつけた瞬間、謎の魔法陣が騎士の倒れる地面に現れ、光を放った。


「転移魔法!?」


「逃げられる…!」


「まずいですわ!」


「逃がすか!」


 四人がそれぞれの攻撃魔法を放とうとした瞬間、騎士の姿はその場から消えた。




 この日の出来事は人々の間に悪夢として記録される事となった。


 世界を滅ぼそうとした騎士を大魔道士ティアの部下が倒し、騎士は己の敗北を認めず、魔法を暴発させ、国ごと消滅したと。


 その騎士の名前は史上最悪の悪人として残る事となった。


 …ごく一部がこの話に違和感を覚えたが、すべては握りつぶされた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ