第一話 異世界召喚の自覚
目の前には終点が見えない程の地平線のように、草原と大きな壁が聳え立っている。その草原には俺の姿以外何も無い。
「あんれ~?ここ何処だ?」
見覚えも無い只管続く景色に戸惑いながらも、俺は叫んだ。
「クッソー!マジ何処だよ!つーかなんでこんなでかい壁があってこんな広い草原があるってんだよ!?それ以前にここ日本か?」
突如見舞われたこの状況による動揺や不安感を押し込むため、俺は別の事を考える。
「待て俺!落ち着け俺!俺の名前はなんだ!そう俺は高校二年生、森屋優斗17歳だ。運動も駄目で成績は底辺だ。アニオタであり、ゲームオタクでもあるが引き籠もりではない。一歩手前なだけでまだ、引き籠もりではない。」
俺は恥ずかしい人生について一人で語った。
「何を一人で騒いでいるんだい?」
「うわぁーー!」
完全に自分の世界に入っていた俺は急に声をかけられ絶叫する。
俺が振り向くとそこには馬に乗った一人の青年がいた。青の短髪と青の瞳を持ち合わせ、その顔は剰りにも整っていてブサ面の男からみれば嫉妬の対象でしかない程のイケメンだ。しかも女を惑わすような笑みをしているのが余計に腹が立つ。おそらく常にこの顔をしているのだろう。
「なんだよ急によ───。」
俺は少し文句でも垂らしてやろうとそのイケメン野郎を良く見る。しかし咄嗟に言葉が詰まる。その考えは消えた。
そのイケメン野郎は鎧を着ている。鎧といえば銀だとか白金とかを想像していたが、薄い水色のような鎧を着ている。まるで『騎士』だ!ゲームで騎士を何度も見てきたがそういえば騎士なんて顔ぐらいで鎧なんかいちいち見てなかった。そういえば他の色もあったかもしれない。今の時代は進んでいるんだ。いつまでも同じ色以外の鎧を着ているわけではないだろう。
「もしかしてお前、騎士か?」
期待に胸を弾ませ俺は聞いた。
「そ、そうだけど。」
イケメン野郎は戸惑いながらも俺に応えた。
まぁ確かにそうだろう。彼からしたら一人で叫んでいる男に急に当たり前の事を聞かれたんだ。
少しぐらい戸惑ってもおかしくはない。
「君、名前なんていうんだい?」
イケメン野郎は話を変えたいのか、俺に聞いてくる。
「俺か?俺は森屋優斗だけど。そういうお前は?」
「僕はシュロム。シュロム=エクウェスだよ。宜しくユウト。」
イケメン野郎改め、シュロムは笑顔で手を差し伸べて来た。王道なゲームなら手を握り会う友情の感動シーンが出来るんだろうが、
バシッ
俺はまさしく悪役がするような、回りから見たら本当に腹の立つ笑みを浮かべお前の思い通りになってたまるかと言わんばかりにを振り払った。少し驚いた顔をしたシュロムがほんの一,二秒程でまた持ち前の笑顔を取り戻す。余談だが、俺の性格の悪さには俺自身物凄く自信がある程だ。
「正直少しショックを受けたが、まぁ良いよ。それよりここで何か嘆いていたみたいだけど、どうかしたの?」
「あ、そういえば」
俺が咄嗟に悪の親玉のような顔を何かを思い出したかのような顔に切り替える。よくよく考えてみれば、なんでこんな場所にいたのだろうか。
昨日の事を思い出してみよう。確かゲーセンで遊んで6時くらいに家に帰って、7時半には晩飯と入浴を終えた筈だ。そのあとゲームやりまくって勉強もせず、1時までやって久しぶりに1時に寝たんだよな。そして起きてみれば草原にいたわけだ。
「そういえばここってどこ?日本?」
俺はシュロムに聞いた。とても重要な話だ。東京に住んでいるためよくわからないが日本にこんな草原と壁があるものなのか。
「ここかい?ここは『熾天使セラフィム』様を信仰するセラフィム教の信者が八割占める王国、レグヌム王国の王都のすぐそばだけど。ちなみに『ニホン』とは何処の事だい?どうやら地名のようだけど。」
予想外の回答が帰ってきました。まぁ、確かにここが日本だとは思えない。そういえば当たり前に名前を交換していたが、『シュロム=エクウェス』という名前は日本人の名前ではない。でもなぜか言語は通じている。ということは文字も共通しているのだろうか。
「ってことはなんだ?俺もしかして異世界召喚でもされたのか?」
俺は何かを納得したように腕を組み、自慢気な顔になって喋べった。
「そうかそうか、確かに伊達に妄想してた訳じゃねぇもんな。この世界から俺のいる異世界まで俺が必要だから召喚したわけか。そんで、俺を召喚したのは誰だ?お前か?」
犯人を指差すかのようにシュロムに人差し指を向けると
「すまない。納得しているところ悪いんだけど、言っている意味がわからな──いや、理解できないんだ。」
本当に申し訳なさそうに言うシュロムを見ているとこっちの方が悪い気分になってしまう。
「まぁ、悪かったよ。確かに異世界召喚するのは美少女というお約束があるぐらいだ。例えイケメンのお前でもそれはないだろうよ。まぁ、この話は置いといて。」
俺が両手で何かを置くような動作をしながら言う。
「ところでお前騎士なんだろ?騎士なら困ってる人をほっといたりしないよな?ほら見ろよ。俺、困ってるよ?混乱してるよ?まさか騎士ならこの俺をほっておいたりしないよな?」
調子に乗りすぎたかな?。切られちゃうかな?言い過ぎたかな?騎士に対する発言に多少後悔する。だがシュロムは変わらぬ笑顔で
「いいよ。丁度仕事も終わったところだ。でも君、どこから来たんだい?その服装も見たことないものだが。」
「コイツ騎士の鏡か?」俺は心の中でそう呟く。服装については説明できないだろうから忘れて頂こう。
「そんなこと気にすんな。さぁ、行こう。」
優斗が王都の方向を指差し言うと「やれやれ」と言いながら後ろをシュロムが馬に乗りながら動きだし、二人は王都へと歩き出した。