ボスモンスター
最後に天月とユウの小話が入っています。
全員のレベルが上がっているので“始まりの平原”での適正は奥になる。
出現するモンスターがラビットから大ネズミへ、大ネズミからウルフへと変化して行く。モンスターの状態もノンアクティブからアクティブへと切り替わっている。
「はああ!」
「ギャン」
ウルフの群れを倒した処で奥の方から「ワー!」と言う声が聞こえた。
「何かあったのか?」
「さあ」
俺の疑問にサンと天貴の2人が答えられるはずもなく曖昧に答えた。
だが数秒の間に答えは判明した。米粒の様だった影も、はっきり人型になって見える。
はっきり見えるようになりその方向を見ていると、狼型のフィールドボスモンスターとウルフの群れを複数トレインしたプレイヤーの姿があった。
「おいおい、何でこっちに来るんだよ」
「街がこの方向だからかな?」
「街の人間に倒してもらおうって魂胆だろうね」
俺、サン、天貴の順で感想を述べる。お前達なんて冷静な。
「って冷静に話してないで巻き込まれない内に逃げるぞ」
「そうだね」
俺が逃げようと言うと2人は同意してくれた。
少しずつ近づいて来る集団から逃げようと走り出すとホワイトが何かに足を取られ転んでしまう。
「ホワイト!」
「急げ! 巻き込まれるぞ」
サンがホワイトを助け起こそうとホワイトに駆け寄った時、今までトレインしていたプレイヤーが狼型のフィールドボス、ウルフリーダーに殺されてしまった。
「ヴヴゥ!」
ターゲットが明らかに此方に移っていた。
ウルフリーダーは10レベル。ウルフリーダーを相手取る事は俺達にもできるだろう。だが今回ウルフリーダーの連れているウルフは9体、通常の3倍だ。
「やるしかないな」
「そうだね」
「ウルフに【力弱化】」
俺の言葉に天貴が言葉を返してくれる。サンは返事をする時間が惜しいのかウルフの集団にデバフをかけて行く。
俺達にサンのバフ効果がある内が勝機だと打って出た。後はその間にどれだけウルフの群れを片付けられるかがカギになって来るだろう。
サンは全体のバフ、デバフを管理しつつホワイトとヴォルフに指示を出しかく乱を。天貴は距離の離れたウルフに魔法を放ちつつ素手で殴っている。俺はというと……。
「犬コロこっちへ来い!」
ウルフリーダーのヘイトを挑発で稼ぎ、ターゲットになっていた。
「グルルル」
「チィ」
ウルフリーダーが唸り声を上げ俺に襲いかかって来た。盾をウルフリーダーの直線状に構え、盾で弾く。
ウルフリーダーの身のこなしは素早く、俺は防戦一方になっていた。剣で攻撃しても全て避けられ、逆に攻撃される。
ウルフリーダーのターゲットになるのは辛いが、サンと召喚獣達や天貴の攻撃でウルフ達は数を減らしている。
「ギャン」
狼の悲鳴に横を見ると天貴が最後の1体を残しウルフを倒した所だった。サンはホワイトとヴォルフに指示を出し最後のウルフの足止めを命じている。
何故最後のウルフの足止めが必要かというと、ウルフを全部倒すとウルフリーダーがスキル【孤軍奮闘】を発動する為だった。残された最後の1体になるとステータスが大幅に上がるのだ。一番初めに倒すフィールドボスモンスターと言われている割に嫌なスキルだ。
天貴が此方に向かって来た。
「【ライトボール】」
「グルル」
「悪いサン。サンキュー」
気が反れていたせいでウルフリーダーに攻撃を受けそうになった所を、サンがウルフリーダーに光魔法を打って気を反らしてくれた。
「アウスに【力強化】【耐久強化】、天貴に【力強化】【耐久強化】。そろそろMP切れるよ」
サンが俺と天貴にバフをかける。更に掛け声でMPが切れる事を教えて来た。
俺と天貴は顔を見合わせウルフリーダーに向かって行く。
俺がウルフリーダーの正面から挑発で引きつけつつ攻撃を仕掛け、天貴が脇から拳での打撃と魔法を織り交ぜつつ攻撃を仕掛ける。
少しずつウルフリーダーのHPを削り、ウルフリーダーのHPが1/4を切った時赤黒いオーラを発して来た。そして今までにない速さでサンに攻撃を仕掛けて行った。
「しまった! 俺からターゲットが反れた」
「ホワイト!?」
サンの悲鳴にウルフリーダーの先を見ると、サンを庇ったホワイトが地面に叩きつけられる所だった。
ホワイトが死んだと思った時、サンのアイテムボックスから何かが零れホワイトが立ちあがった。
「何がって起こった……身代わり人形か!」
俺の言葉にサンと天貴が納得したという顔になった。
「今だ、追撃をしよう」
「了解」
「ホワイトはヴォルフとあっちのウルフの足止め」
俺の言葉に天貴が答え、サンはホワイトに指示を出す。
俺が再びウルフリーダーのターゲットになると、天貴がヒットアンドアウェイを繰り返しながら攻撃を仕掛ける。引いている間に魔法を打ったりもした。
「【ファイヤーボール】」
天貴の魔法がウルフリーダーに当たると、ウルフリーダーはポリゴンになって消えて行った。
俺達はホワイトとヴォルフの相手をしているボロボロのウルフに向かった。俺が袈裟切りを放つとウルフはポリゴンになって消えた。
「よっしゃあ! フィールドボスに勝ったぜ」
〈フィールドボス【ウルフリーダー】が【アウス】パーティーによって倒されました〉
〈これよりMVP発票に移ります。……MVPはプレイヤー名【天貴】様〉
俺が興奮して歓声を上げると丁度機械音が鳴り、ウルフリーダーを倒した文面が映し出された。
MVPになれなかった事は惜しいが天貴がMVPに選ばれるのは当然の様に感じた。だってアイツウルフリーダーどころかウルフからもダメージ受けてないんだぜ。動きが俺の知っている人間の動きじゃなかった。
「天貴凄いね。MVPだよ」
「おう。天貴おめでとう」
「ありがとう2人共」
サンの純粋な賛美に俺も天貴を祝福する。
「3人共おめでとう。初のボス突破ね」
「姉さん?!」
「「天月さん?!」」
唐突に天月さんの声が聞こえた。その声の方を見ると天月さんと兄貴が揃って立っていた。
「兄貴まで! 如何したんだ?」
「チャットでトレインしている奴が居るって聞いてな。たまたま始まりの街にいたからこうして様子を見に来たんだ」
「姉さんも?」
「ええ。私も始まりの街にいたから」
どうやら2人して初心者の街をウロウロしていたらしい。丁度良かったと言うべきか、もう少し早く来てくれと言うべきか。
「ねえ貴方達、私達のクランに入らない?」
「「「えっ」」」
「クランの皆に話したら、会ってみたいって言っていたから」
天月さんからの爆弾発言に固まる俺達。
「クラン『合縁奇縁』に、って事だよな?」
「ええ、そうよ」
クラン『合縁奇縁』っていうのは少数精鋭クランとネットに書いてあった。クランへの入会試験はアップデート後の上級マップをソロで探索する事のはずだ。それを始めたばかりの俺達なんか入れたら騒ぎになる事請け合いだ。
俺は同じ事を考えているだろう天貴と顔を合わせると、頷きあい俺が口を開いた。
「御誘いは嬉しいのですが俺達は資格がありません。俺達は自分で入会できる所まで行くのでそれまで待っていてもらえませんか?」
ついつい敬語になってしまうのを抑えられない。なんて言ってもトップギルドの1つからの誘いなのだ。
「リアルで1年遅れているって事は此方では6年のハンデがあるってことよ。それでも上がって来ると?」
「はい! だから上で待っていて下さい」
「ふふ、はやり過ぎた様ね。貴方達が追いついて来るのを楽しみにしているわ」
俺達が断っても天月さんは笑って許してくれた。流石ザ・ディファレント・ミソロジー全体でも指折りのクランリーダー。
「絶対追いつきます」
「ええ、待っているわ」
「今日はもう疲れたので街に戻ります。……天月さん達はどうするんだ?」
「私達はのんびり帰るわ」
敬語の切れた俺にも笑って対応してくれる。これで本当に1歳差なのだろうか。俺の姉との差をひしひしと感じる。姉相手に敬語なんて使わないが、こう凶暴性がない所とかが全然違う。天貴がシスコンになるのも頷ける。
「アウス何時でも連絡して来い」
「ありがとう兄貴。でも俺達で頑張って行くつもりだ」
「そうか頑張れよ」
「おう。またな」
兄貴が気軽に話しかけて来た。向こうでは天月さんと天貴、サンが話している。
俺達は別れをすませると始まりの街へと戻って行った。
◆◇◆◇
「振られてしまったわね」
「仕方ねえ、ネットに流れている入会資格本気にしてるんだからな」
私は息を吐き出し、ユウへ話しかける。私達のクラン『合縁奇縁』は元々、友人だけで作った身内クランだった。それが何時の頃からか少数精鋭クランと呼ばれるようになり、入会希望者で溢れかえる様になってしまった。クランに入ってもらう事も考えたけれど、クランの雰囲気はがらりと変わるだろう。攻略クランとして。
私達は楽しみながらというスタンスを変えたくなく断っていると、何時からか『合縁奇縁』の入会資格は上級マップをソロで探索する事。という噂が立ち始めた。
私達クランの人間はアクが強い為か、少数パーティーを組むかソロの者が多い。前線に出る者も多く上級マップにソロで行く者も多かった。
噂が流れるとそれまでいくら断っても来ていた入会希望者がパタリと消え、噂を解消できないまま真実として独り歩きを開始してしまった。
「それにしても上で待ってろって事は、俺達にトップギルドの1つを維持しろって事だぜ」
「ふふ、そうね。手始めに次のレイド戦頑張りましょうか」
「そうだな」
ユウは少し困ったような言い回しをしているが、顔は笑っている。それはどうやら私も変わらないらしい。
最後までお読みいただきありがとうございます。
短い間でしたがお楽しみ頂けたでしょうか?




