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初戦闘

 東門から出るとマップが”始まりの平原”という名前になった。

 俺達はこれから始まる戦闘に興奮が隠せずにいた。


「サン君からよね。まず召喚モンスターを呼べるようにしましょうか。ユウ宜しく」


「おう。待ってろ」


 天月がサンにモンスターを呼ぶ為の条件をそろえる為、兄貴にモンスターを連れて来るように指示した。

 召喚術でモンスターを召喚するには、召喚術スキルを持った者が1度でも触れた事のあるモンスターでなければならない。

 この”始まりの平原”に入ったばかりの場所はノンアクティブのモンスターしかいないが、触れてしまえば戦闘が始まる。だから兄貴がモンスターを引きつけている間に触るしかない。弱いモンスターしかいないから、戦闘が始まってしまっても直ぐに死ぬという事はないだろうが。

 そうこうしている内に兄貴が挑発スキルでラビットというモンスターを連れて来た。モンスターというより動物だが。


「よし。何時でも触って良いぞ」


「はい!」


 サンはラビットの後ろに回ると隠蔽を使ってラビットに触る。そしてサンが後ろに下がるのを見た兄貴がラビットに拳を振るった。

 ラビットは光のポリゴンになり姿を消した。残ったのはドロップアイテムのみ。


「サン初召喚してみな」


「はい」


 兄貴に促されサンは召喚術を使いラビットを召喚した。


「えっと、名前はホワイトで。宜しくホワイト」


「キュイ」


 サンは召喚した白い兎をホワイトと名付けた。名前を付けられたホワイトは嬉しそうに鳴いている。それにしても白いからホワイトって安直過ぎないか?


「色で名前を付けるのは良くある事よ。私もそうだし」


 俺の心を読んだように天月さんが言葉を発した。


「天月さんも召喚術を?」


 天月さんの言葉にサンが疑問を持ったのか質問した。


「私は召喚術ではなく調教術、いわゆる調教術師(テイマー)ね」


「そうですか。でも調教術は難しいって載っていましたよ」


 サンの質問に天月さんが答える。そうするとサンがネットに載っていた事を言った。


「サン調教術は元々地雷扱いされていたんだ。それを難しい(・・・)に落ち着けたのが姉さんなのさ」


 サンに答えたのは天月さんではなく天貴だった。

 確か天月さんは4回のテスターの1人で、ザ・ディファレント・ミソロジーを誰よりも知っている者の内1人だ。3回目のテストの時調教術を取り、それまで地雷扱いされていた調教術に光を射した人。


「そ、そうなんだ。すみません僕知らなくて」


「良いわよ別に、テイマーが難しいのは本当の事だもの。だから人数も少ないし」


 調教術は触った状態でスキルを使わないと成功率が下がる。更にパーティーを組んで居れば居るほど、また成功率が下がる。何とも難しいスキルだ。


 改めて召喚モンスターを得たサンの戦闘が始まる。

 兄貴がレベル1のラビットを探して連れて来た。


「ホワイトに【力強化】」


 サンがホワイトに付与術をかけ、ホワイトが兄貴の連れて来たラビットに攻撃を仕掛ける。

 ホワイトが野生のラビットに体当たりを仕掛けるが、野生のラビットは兄貴から目をそらさない。

何度かホワイトが体当たりをすると野生のラビットはポリゴンになって消えて行った。

 途中ホワイトに攻撃がかすっていた為削れたホワイトのHPを天月さんが回復させる。


 兄貴は次の獲物を探しに周りを見回している。

 いよいよ俺の初戦闘だ。

 兄貴に吸い寄せられるようにラビットが近づき、攻撃を仕掛けている。俺はラビットの後ろに回りチュートリアルで貰った片手剣を振り下ろす。


「キュア!」


 ラビットに攻撃がヒットしラビットが俺の方向に向き直る。振り下ろした剣を引き戻し、今度は素早く突いた。が、ラビットにジャンプしかわされた。


「キュイ」


 ラビットが素早くジャンプし俺の腹に体当たりして来た。HPが少し削れる。

 痛覚を50%OFFにしている為対して痛くはないが、衝撃はカットできなかった様だ。


「はぁぁ!」


「キュア」


 右上段から袈裟切りに振り下ろした剣がラビットに当たって、ラビットのHPを更に削る。今度は振り下ろした剣を上に向けて切りつけた。

 これでラビットのHPは残り1/5だ。


「はっ」


 もう一度振り下ろした剣は見事ラビットに当たり、ラビットはポリゴンになって消えて行った。残るのは始めてのドロップ品だ。


「おっし。次は天貴だぜ」


「ああ、頑張るよ」


 天貴と場所を入れ変えた俺に天月さんの光魔法が届きHPを回復させてくれた。

 天貴用のラビットを兄貴が探しに行き、ラビットを引き連れて来た。

 天貴が兄貴の方に進み、繰り出したのは強烈な回し蹴り。あれ? あいつ魔法職になるんじゃないの?

 だがラビットにたいして大したダメージを与えてないのか、ラビットは未だに兄貴を攻撃している。

 天貴が素早い突きのラッシュを繰り出すと、流石に効いたのかラビットが天貴に向き直る。

 ラビットがジャンプしようとした時天貴がローキックを仕掛け、ラビットは転がって行く。容赦ない踵下ろしがラビットの腹に決まった。

 天貴が足を離した隙にラビットは天貴から距離を取った。

 一気にダッシュで距離を詰める天貴にラビットは身が竦んだのか、身動きを止める。

 突き、蹴りのラッシュが続き、ラビットのHPを少しずつ削って行く。やがてラビットのHPが尽きたのかポリゴンになり消えて行った。


 俺は天貴の戦闘をポカーンとしながら見ていた。いやいや、お前魔法スキルと補助スキルしか持ってないじゃないか! 何やってんの?!


「ふー、以外に簡単だね」


「『ふー』じゃねーよ! 何で物理なんだよ。魔法どこ行った?!」


「ぷははは。いや、お前本当に天月の弟なのな」


 息を吐いた天貴に俺は突っ込みを入れる。そんな時兄貴の笑い声が響いた。


「私はスキル取ってからやったわよ」


「いやいや、何で魔法職と物理職一緒に持っているんだよ」


「取れたからよ」


 兄貴の笑い声に天月さんがフォローを入れる。ちゃんとフォローになっているかはともかく。

 兄貴の言葉に二つ名持ちのプロフィールが頭を過る。『「移動砲台」天月、魔法職、物理職、生産職と器用貧乏になること間違いなしのジョブ構成ながら、異様なプレイヤースキルを持って最前線で攻略している』確かこう書かれていた。


「凄い! 天貴凄いよ」


 ようやく活動開始したサンの言葉に俺は現実に戻る。


「天貴はリアルで武道習っているのか?」


「家が古武道の道場なんだ」


 俺の問いに天貴が答えた。確かにあのラッシュは凄かった。


 こうして天月さんと兄貴に手伝ってもらって数戦、俺達は3レベルになった。スキルの熟練度も少し上がっている。


「そろそろスキル増やした方が良いわね。幾つか簡単なスキルなら此処でも取れるけど、どうする?」


 始まりの街の道場でもスキルは取れるが、有料なので俺達は天月さんに教えてもらう事にした。


「3人のスキル構成だと投擲かな。そこら辺に転がっている石拾ってちょうだい」


「「「「はい」」」」


「何でユウまで声ハモらせるの?」


「いや、何となく?」


「私に聞かないでよ……」


 天月さんの指示に俺達3人、いや兄貴も声をハモらせる。

 何やってんの兄貴。




「集まったようね。あの低木に向けて投げてみて」


 天月さんに言われた様に俺達は低木に向けて石を投げて行く。

 意外と難しく、低木から反れる石が幾つもある。


「石がなくなったらこれを使ってね。ほらユウも投げてないであげて」


 天月さんが石をくれた。さっきから兄貴の石が低木の横でゴツンと痛々しい音をたてて地面を削っている。

 兄貴本当に何やってるの?!


 ほどなく機械音が鳴り【投擲Ⅰ】を覚えた。


「天貴はさっき武術スキル取れてたわよね。後は魔録操作を使って風・土魔法を取ってちょうだい。やり方は分かる?」


「分かるよ。空と土に向かって魔力操作すれば良いんだよね」


「そうよ。水魔法は街に帰ってやってね」


 天月さんが確認の為に天貴に声をかけた。

 【魔力操作Ⅰ】のアーツは魔力増幅。それをそれぞれの属性にあった物に使うと火・水・風・土の4属性の魔法は覚える事ができる。火魔法だけはダメージを食らうが。


「アウス君はジャンプね。100回ジャンプすれば覚えられるから」


「はい」


 俺も後で覚えるつもりだったスキルを天月さんに言われた。


「サン君はジャンプとステップね。ジャンプはアウス君と同じよ。ステップは反復横跳び100回ね」


「はい。頑張ります」


 召喚師を目指しているサンの場合確かに動きまわれた方が良いもんな。


 そうして天月さんの指示に従う事数分、俺達はそれぞれスキルを習得した。


 そろそろ満腹度と水分量が減って来たため休憩を取る事になった。先ほど天月さんに貰ったピザとリンゴジュースを取り出した。


「お、このピザ凄く美味しい。バフも着いているし」


「褒めてくれてありがとう。作ったかいがあったわ」


 天月さん作のピザとリンゴジュース美味しくいただきました。


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