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第8話 入院

 優輔は2日間寝続け3日目の朝に目覚めた。

 「寝る」と言ってから昏々と眠り続けた優輔に対し、誰もがこのまま目覚めないのでは?とやや不安になった。だが半日程寝てから目を覚まし、顔色もすっかり元に戻ったルイだけが、


「2日位寝れば、元気になる」


 と、確信めいたことを言い、更にそれが現実となったことに周囲を驚かせた。


 当の本人である優輔は、皆が驚いている理由が解らなかった。考えても解らなかったので、彼に出来ること、つまり無くなった血と体力を元に戻すため、不味い治療食を食べ続けた。


(う~ん。何となく食べたことあるような食材あるけど、やっぱり地球とは違うなぁ・・・)


 不味いこともそうだが、食べなれた味がないことが、一番堪えていた優輔である。


 驚く、といえば優輔は背中の怪我に目を疑った。怪我といっても、すでに傷痕が分からないない程に完治している。うっすら赤い引っ掻き傷に見える位だ。

 治療してくれた神官に怪我を負った時の状態を聞き「重体であった」と言われれば、ますます、


(異世界って凄い!!)


 と感動しきりであった。


 優輔が食べることと平行して取り組んだのは「この世界」について学ぶことであった。


 最初に聞いたのは、自分が獣人の剣から庇い、今は自分の看病係となった子供の名前を聞くことだった。鳶色の髪に水色の瞳を持つ、7~9歳位の男の子。服は被る形の長袖シャツにズボン、ブーツというシンプルな出で立ちである。


「僕の名前はアスール!」

「アスールか。俺は御子優輔。ユウって呼んでくれればいいよ」

「わかった!にーさん・・・じゃなくてユウさん」

「あはは。『さん』って付けなくてもいいよ?呼び辛ければ。言葉遣いも無理しなくてもいいし」

「やった!堅苦しいの苦手だったから。ユウよろしくね!」


 優輔はアスールが差し出さしてきた、まだまだ子供らしい柔らかい手を握り返しつつ、もう2度と会えないであろう妹を思い出した。


(毎朝自分で髪の毛結べてるかな?)


心配する内容がややズレていたのはご愛嬌。


 治療神官から、あと数日はベッドから出ずに安静にしていることと厳命を受けている優輔は、アスールと世間話をしながらこの世界のこと勉強していった。


「この国はなんていう国?」

「え?ユウは違う国の人なの?」

「そ、そうだよ!凄く遠い国から来たんだ」


(う、うん。「異世界」だから遠い国・・・って言っても間違えじゃない・・・よね?)


「そうなんだぁ。いいなぁ。僕も違う国に行ってみたいよ~!っと。この国の名前はヴァーディア。で、街の名前はリテラだよ」

「ヴァーディアにリテラか。この街以外にも近くに街はあるの?」

「この辺りでは一番大きな街だと思う。馬車で1日くらいの距離にいくつか小さな町があるよ」


 優輔は最初に目覚めてから、ひどい目にしかあってこなかったが、この異世界に対して興味は尽きなかった。アスールのこともまた然り。


「ところで、アスールは学校とか行ってないの?毎日看病に来てくれるけど」

「ガッコウ?」

「あー。学校って言葉はないのか。んーと、本読んだり数を計算したりするところ?」

「あぁ!学舎のことかな?僕はたまに行っているよ。貴族でもない限り毎日は行かずに、家の手伝いとかすることが多いんだ」

「学舎っていうんだ。俺は毎日通ってたよ。貴族ってわけじゃないけど」

「へぇ。ユウくらい大きくても行くんだね!ユウくらいの人はみんな働いてるよ!」

「え?そうなの?」


 この国の就業年齢にびっくりした優輔である。


(ってことは、俺も働かないとダメだよなぁ?短期のバイト位しかやったことないから、何ができるかも分からないんだけど・・・)


 優輔は早速頭の中で自分ができそうなことを考えながら、アスールに質問を重ねた。


「アスールはどんな仕事をするか考えてるの?」

「え?僕?そうだなぁ。属性が『水』だから漁師とか考えてるよ。親類にも多いから弟子入りさせてもらうんだ」

「えっ?属性って何?」

「生まれたら持ってるんだって。かーさん言ってたよ。何かは良くわかんないけど、スキルも属性によって違うよ。ユウの国にはないの?」


(「属性」に「スキル」なんて、ますますゲームのような世界だなぁ!すげー)


「うん。聞いたことない・・・かな。アスールもスキルあるの?」

「そうだよ!今度見せてあげるね!水がないと見せられないんだぁ」

「おぉ!楽しみにしてる」


 優輔は、アスールと話すことで自分が異世界にいるとひしひし感じることになった。


「俺にも属性あるのかな?」

「無い人なんていないはずだけど。神殿の儀式神官に見てもらえるよ!スキルも!」

「おぉー!じゃあ俺も起きれるようになったら見てもらおう」

「うん。僕帰りに神官様に頼んでおくね!」

「アスール。いつも本当にありがとうな!」

「うん。じゃあ、また明日来るねぇ」


 そういうと、アスールはヒラヒラと手を振りながら部屋から出ていった。いつも昼過ぎに部屋に訪れ、夕刻の鐘が鳴ると帰宅するアスール。夕刻の鐘は優輔の感覚では4時位。この世界は夕食は5時位には出てきた。


 アスールが帰り優輔夕食を食べると、その後は一人の時間となる。


 優輔がこの世界で初めて目覚めてから1週間程。未だ地球で死んだと確信したわけではなかった。しかし「その可能性高い」ことは理解できていた。何故なら。


(あの時・・・明らかに轢かれたよな。俺・・・)


 地球で過ごした(と思われる)最後の日のことを思い出すと涙が浮かび、家族や友達にもう2度と会えない可能性を考えると涙が溢れた。そんな夜を数日間繰り返した。


(寝て起きたら元通り・・・なんて、都合のいいことは起きないしなぁ)


 考えても仕方のないことを考えた。しかしいくら考えても、悩んでも「現実」は変わらない。


 この世界で瀕死になった。だが自分は生きていた。それが今の優輔の「現実」。

 意味がきっとある。悩んだ結果、優輔はそう考えるようになった。


(意味は後で考えるにしても・・・この世界で生きていくのに何が必要何だろう?お金、住むところ・・・まずは・・・仕事・・・かなぁ?)


 とりあえず、何か仕事しなければと考えていた時、昼間アスールに聞いたことを思い出した。


(『属性』と『スキル』・・・俺にもあるのかなぁ?・・・とにかく、もうすぐここから出れるみたいだし、これからのことでも考えよう)


 優輔はくよくよするのを止めた。その代わり、自分にできることは何か?と深夜まで考え込むことになった。

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