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第7話 黒と白の世界

(あれ?ここは・・・)


 暗闇の中にいる。優輔はそれだけは分かった。

 眠っているのか、死んでいるのか。


 (あの時と一緒・・・?)


 数分。


 数時間。


 数日。


 数年。


 ・・・それとも永遠。


 この漆黒世界で自分は一人。優輔には状況が解らなかった。


 (・・・今度こそ死んだのかな。俺)


 優輔は地獄行きか天国行きか、それともこのままか、永遠にも続きそうな暗闇の中で身体を震わせた。実際には「震わせる」ことはできないのだが。

 その時。


「xxxxxxxxxxxxxxxxx」


 (声が・・・聞こえる?)


 優輔はどこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。その瞬間、身体の中心ーー心臓を中心に「暖かい」何かが、指先、爪先、頭の天辺まで全身に一気に広がった。

 手足が動き「生きている感覚」が感じられる。


「・・・ユウ・・・も・・・い」


 また声が聞こえる。優輔は名前を呼ばれた気がした。声が聞こえた方向に意識を向ける。


「ユウ!戻ってこいっ!」


 今度ははっきりと優輔は自分を読んでいる声が聞こえた。同時に目の前に眩しい光が広がる。


(この「感覚」は前と同じ・・・?)


 心地良い。


 引き戻される。


「ユウ!」


 誰かに呼びかけられた。


 呼ぶ「声」に「意識」が導かれる。


 (明るい・・・)


 (そっちに行きたい。暗いところは、もう嫌だ)


 (行こう。明るい場所へ・・・)


 優輔は取り戻した自分の「感覚」に集中し、明るい方へ向かい歩き出した。



******************************


 光の方へ歩いていたはずだった。気付いた時にはここにいた。

 360度純白の空間が広がる。

 上下左右の感覚も分からない。暑くも寒くもなく無風。


(ここは・・・)


 優輔は固くも柔らかくもない、不思議な床に立っていた。


(なんか、段々驚かなくなる自分が恐い・・・それにしてもここは・・・?)


 優輔以外は全て白。


 「恐い」という感覚は感じなかったが、どこに向かえばいいのか優輔には分からなかった。


(さて、どうしよう)


 闇雲に歩くのも馬鹿らしいと優輔は辺りを見回した。目印になりそうなモノは何も見当たらない。どこまでも「白い」。

 優輔は「どうしたものか」と思案していると、ちょっとした違和感を自分自身に感じた。痛みなどではない、もっと何か大切な・・・。何も見えない筈なのに、何かと繋がっている(・・・・・・)感覚。

 目を凝らすと、心臓辺りから淡い金色の光が小指の太さほどの鎖状に見えた。鎖はまるで意思を持っているかのように、ある方向に向かって伸びていた。


 その鎖に何故か思慕を覚えた優輔は、その鎖が伸びる方へ歩き出した。

 しばらく歩くと金色のトビラが見えてきた。鎖はそのトビラに吸い込まれるように延びている。

 トビラの金色はまるでルイの髪色のようで目が離せない。


「ルイ・・・?」


 トビラの直前で優輔は立ち止まった。トビラにそっと手を添えると、この空間に来て初めて「暖かさ」を感じた。


(この先に「自分の行くべき場所」がある)


 優輔は自分の感覚に従い、迷い無くノブに手を掛けた。


*******************************


 目を開けると、ルイと子供に顔前で覗きこまれていた。


(俺・・・生きている?)


「ユウ!」

「にーさん!」


 二人から声が掛けられた。その後ろには見慣れない装束を纏った人々が驚いた表情を浮かべていた。更に鼻を突く噎せかえる血の臭いが室内に充満している。


「あ・・・俺・・・生きてる?」

「あぁ。死にそうだったけどな」

「にーさん!良かったよぉ!」


 優輔は横向きに寝かされていた。何故横向きなのか優輔は、ぼぅっとした頭で考えた。


(あぁ。背中切られたんだっけ?何だか身体中ベタベタするなぁ)


 視線を自分の身体や床に落とすと、夥しい量の血液が目に入った。


(あー。大惨事。洗濯と掃除が大変そう・・・)


 優輔は少しズレた感想が頭に浮かんだ。流石に口には出せなかったが。

 

「俺・・・どうしたの?」

「剣で肩から背中を切られた。治療院で治療をしたんだ」

「にーさん、死んじゃうかと思ったよー!良かったよぉー!」


 どうやら、記憶は正しかったようで優輔は少し安心した。先程から「にーさん」と呼んでくるのは、優輔がとっさに庇った子供だろう。優輔の血と思われる赤い染みが至るところに見られた。


「怪我は・・・ない?」

「うん。にーさんのお陰で助かった!ありがとう!にーさん!」

「そう。・・・良かった」


 優輔は子供が無事だったことに安堵した様子を見せると、意識が遠退いたのか、静かに目を閉じた。


「ユウ!」

「にーさん!」

「血液を短時間で大量に失ったのです。しばらく眠れば大丈夫でしょう」


 治療神官の言葉に緊張の糸が切れたのか、ルイはその場に座り込む。心無しか顔色が悪い。そんな状況でも、ルイは確認せずにはいられなかった。


「・・・そうか。傷はもう大丈夫なのか?」

「『双』の契約で生命力が補われ、傷の治療は完了しました。むしろ、ルイ様の方が・・・」

「私も大丈夫だ。しばらく休めば問題ない」

「そうですか・・・それでは院内の療養室をお使い下さい」

「ユウもそこに運んでくれ」

「承知しました」


 治療台に手を着きながらではあったが、ルイは自らの足で立ち上がる。

 治療神官に案内され白いタイルが敷き詰められた明るい廊下を進むと、清潔に保たれた療養室にたどり着いた。室内は白で統一され、正面上部の壁に小さい光取りが1つ、その真下に小さな棚、部屋の左右の壁に添うように寝台が2台設置され、小さいながらも浴室も備え付けられている。


 ルイの気力は限界に近かったが、湯浴みの準備がされていたため身体中に付いた血を洗い流す。湯浴みを済ますと、流石に限界を向かえ寝台に倒れ込む。そのままルイは意識を手放した。


******************************


 優輔が目覚めた時に目に飛び込んできたのは「白」だった。


(あれ?また夢・・・?)


 夢と勘違いしそうになった優輔だが、すぐに違うと感じた。空気に暖かさがあり風も感じた。視線を動かして良くみれば白で統一された部屋の中であることが分かった。


「あ、にーさん、起きた!大丈夫?」


 顔を声の方に向けると、子供が椅子に座って優輔を覗きこんでいた。


(なんか、良く見られるな)


「っ大丈・・夫・・・みたい」


 長く寝ていたのか、声が出し辛く喉に詰まる感じがした。その様子を見ていた子供は。


「水あるけど飲む?それとも何か食べ物もらってくる?」

「そ・・ういえば、喉渇いた・・」

「わかった!」


 子供は、棚の上にあった水差しを手に取るとグラスに入れて優輔に渡してくれる。


「あ、ありがとう」

「どういたしまして」


 子供は優輔の世話が出来て嬉しそうだ。椅子に座って足をブラブラさせている。

 優輔は渡された水を飲むと思った以上に水分を欲していたようで直ぐに飲みきってしまう。子供は更に水を注いでくれた。


「そういえば、何で君がここに?」


 水を飲んだからか、すんなり声が出せた。


「僕のせいでにーさんが切られたんだし、心配だったから看病しようと思って」

「そうなんだ。ありがとう。・・・そういえば、ルイさんは?」

「あぁ!勇者様はあっち」


 子供があっち、と言いつつ指を指した方向を見るとベッドがもう1台あり、そこに横になるルイの姿が見えた。


「な、なんでルイさん寝てるの?・・・ていうか、勇者?」

「うん。勇者。で、にーさん助けたから勇者様は寝てるらしいよ?」

「はい?・・・何で?」

「えーっと、『双』の契約したって言ってたよ?」

「『そう』・・・?」


(ルイさんが勇者?)


(俺を助けたから寝てる?)


(『双』って何だ?)


 初めて聞くことばかりで理解が追い付かない。更に起きて直ぐで頭が回らない。優輔は聞いたことを整理しようとしたが、思った以上に頭が働かなかった。まだ本調子ではない。

 優輔は「これ以上考えても今は無理!」と一旦、思考を放棄することにし、一度普通に寝ることに決めた。


「ごめん。まだ調子がでないから寝るよ。起きたらまた聞かせて?」

「わかった!おやすみ!にーさん」

「うん。おやすみ・・・」


 優輔はこの世界に来て初めて、自分の意思で寝ることができたのだった。

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