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第6話 出逢い2(side ルイ)

 鮮血が舞い、前衛的な絵画のように細かい粒と鋭い線が交差する。


 私は何が起きているのか、一瞬理解出来なかった。

 ユウには広場で待っていろ、と言った。現場に向かって走っている最中に、ユウが追ってきているのに気付きはしたが、声を掛けているほどの余裕はなかった。物取りが人質をとっていたことは想定外だったが、対処する方法も目処がたっていた。


(何故・・・こんなことになった!?)


 ユウを中心に一面に朱が飛び散り広がり、鉄の匂いを一面にまき散らしている。


 上服の濃紺が漆黒に染まる。


 ユウが切られた?


 私は何をしている?


 何をしていた?


 何故?


「キャーーーー!!」


 耳に悲鳴が飛び込む。


(っ!私は何を?!)


 瞬間・・・本当に一瞬であったが茫然としていた私の意識と身体が現実に戻る。


 「停止」していた私の身体が「敵」に向かって反射的に動く!


 瞬きの間(・・・・)に、灰色の獣人前まで距離を詰めると、その勢いのまま左手で剣を抜刀。下から切り上げ獣人の手から剣を弾き飛ばし、身体をぶつけて押し倒した。剣は人混み近くまで飛び、カランカランと転がっていくのが確認できた。


 私は、倒れている獣人を見て、ユウから遠退かせることができたことに安堵した。


 仲間の2人もすぐに獣人を囲み剣を突き付けていた。一人は喉元、もう一人は心臓。

 的確に急所に狙いを定め、少しでも動けば命はないとばかりの殺気を放つ。


 今まで、自分が切られたことも、逆に切り捨てたことも数え切れない。

 しかし、それらはどれも互いにその意思を持ってやったこと。無抵抗な人間に対しての、一方的な蹂躙は決して許されるものではない。


 私は憤りを抑えつつ、それより優先すべきことがあると自分自身に言い聞かせ、周囲に声を掛けた。


「誰かっ!!この者を神殿に運んで欲しい!」

「だ、大丈夫!?にーさん!?」


 ユウが庇った子供は、顔面蒼白になってユウに声を掛ける。ユウの血で染まっているが、自分に意識を向ける余裕はなく、ユウに声を掛けるので精一杯だ。


 とにかく、今は一刻も早くユウを治療することが先決。


「はっ!はい!!」


 私が掛けた声に反応した数人の住人が動き出した。すぐに、近くの民家からシーツが運ばれてきた。そこにユウを慎重に乗せ神殿まで運ぶよう住人に依頼した。子供も付いてくる様子を見せる。獣人は2人に任せて神殿に向かった。


 神殿に着くと数人の治療神官が待ち構えていた。誰かが先ぶれに訪れてくれていたようだ。


「ケガ人はこちらへ」

「助けてやってくれ。頼む」


 神殿に入ってすぐの部屋は礼拝堂。正面には大きなガラス窓が設置されており、常に「双星」が確認できるように計算された大きさとなっている。ドーム状の天井は「聖者と闇者」をモチーフとした絵画が一面に施され、祈る者に安寧を与えるといわれている。


 入ってすぐに右に進むと『儀式の間』へと続く通路が、左に進むと『治療院』がある。


 左に進み治療院を目指す。


 運んでいる間、ユウはピクリとも動かない。脈を確認しすると弱々しいながらも感じることが出来たが、一刻を争うことに変わりはなかった。


 ユウを治療台に運び終える。すぐに治療術の紋様を黄糸刺繍された、白装束を身に纏った高位の治療神官が治療術を施し始めた。装束の形はどの神官も一緒だが、刺繍の紋様と使用される糸の色が異なる。高位になればなるほど明色、下位は暗色だ。


 必死の治療術も血が止まる気配はなく、神官は焦りの色を隠せない。

 常なら白のタイルが輝きを放つ床が、今は深紅の血溜まりに覆われ、室内が生臭い鉄の匂いで満たされていく。


「ユウは大丈夫なのか?」

「・・・この傷の深さでは、我々だけの力では治癒は困難です。・・・命を繋ぎ止めるためには『(そう)』を探すしかないかと」


 この世界の(ことわり)


 --『双生(そうせい)


 完璧な人間は存在しない。誰しも苦手な才や欠如している才がある。その「足りない」部分を補完し合う相手を『双』と呼ぶ。『双』は契約をすることで他方の魔力や生命力を分け与えたり能力が強化されたり等様々な恩恵がある。


 誰でも良いわけではない。『双星』のように「対極」にあることが条件となる。


「わかった。だがユウの『属性』が解らない。珍しい『属性』だった場合『双』を探すのは難しいぞ」

「とにかく、やるしかありません!」

「解った。今すぐ『視て』くれ。治療術は止めずに頼む」

「わかりました。儀式神官を呼びます」


 室内にいた補助の治療神官が儀式神官を呼びに慌ただしく退室する。さほど時間を置くことなく儀式神官が現れた。


「この人の『属性認識』の儀式を行えばよろしいのですか?」

「あぁ。急ぎで頼む」

「わかりました。『スキル』も視ますか?」

「余裕があればで構わない。とにかく『属性』を!」


 儀式神官は『真眼(しんがん)』スキルと『媒体』を用いて『属性』と『スキル』、高位儀式神官になると個人情報を『視る』ことができる。この国では自我を持つ時期になったら神殿で『視て』もらい『属性』や『スキル』によって将来の職を考えることが多い。


 早速『属性認識』の儀式が始まった。

 『媒体』である透明無色の水晶がユウの額に置かれる。そこに儀式神官が認識術を掛けると『属性』に応じた光を放つ。


 私は水晶を凝視した。


 透明無色だった水晶が漆黒に染まる。


 穏やかだった儀式神官の顔が驚愕に変わる。


「こ、これは!?『闇』?は、始めて『視た』」


 『属性』は・・・『闇』。

 『闇』属性は『戦闘スキル』を持たぬ者。通常は市民であっても『術』や『戦闘スキル』を持つ『属性』である。生きていく上で自己を護るのは自分自身。しかしユウは『戦闘スキル』をほぼ持たない。これが意味するのは・・・1人では生きるのは困難だということ。


「『双』・・・」

「えっ?」

「『属性』は分かった。『双』の儀式を始めてくれ」

「だ、誰とです?」




「私だ」


 『光の雨』が表す意味・・・それを考えながら私は静かに答えた。

難産でした・・・。


お読み頂きありがとうございました。

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