第5話 出逢い1(side ルイ)
雲一つ無い蒼空。見上げると2つの星が浮かぶ。
「双星」と呼ばれる1日中輝き続ける星。昼になり太陽が頂点に登りきると、太陽を中心に対極に位置する。一つは北、一つは南。私の住む国にとって象徴とも言うべき星々だ。今日も変わり無く輝いている。
平和に転た寝しそうな何も無い昼過ぎの時間帯。私は大樹の根元で休憩を取っていた。
葉が日除けの役割を果たしてくれ、肌に当たる日差しは柔らかい。木々の間を通り抜ける心地よい風に包まれる。1日の中でも至福の時間。
見回りルートからは少し外れているが、生活門からほど近い場所であるこの場所は、普段は人も通らずゆっくりと過ごすにはとっておきの場所。食堂で干し肉と葉野菜サンドを作ってもらい、昼休憩を過ごすのがお気に入りの過ごし方となっている。
この国の周囲は「精気」に満ちている。「精気」は特にこの場所は私と相性が良いらしく、どんなに疲れている時でもここで休息を取れば、回復することができる。
本来であれば、魔獣退治が私達の仕事。だが、この国の周囲では結界と「精気」に守られており、出現は極端に少ない。私としては国外を旅し、魔獣退治をもっとしたいところなのだが・・・。とある事情からそれも難しい。
だからと言って仕事が暇な訳ではなく、盗賊など人間相手の問題を解決することが多くなる。そのため体力も気力も必要だ。時々こうして「精気」を養うくらいは許されるだろう。
そのまましばし昼休憩を満喫した。そろそろ見回りに戻ろうとして、いつもの癖で蒼空を見上げ「双星」を確認する。子供の頃から、私は何故かあの星々が好きで、ことある事に見るのが習慣化していた。変わらぬ星を見てから立ち上がろうとした時、南の星の異変を感じた。
(いつもより・・・輝きが強く見える・・・?)
普段は「双星」は全く同じ輝きを私達に見せている。それが普通。当たり前なのだ。だが、私が今見ている星はいつもと違う。
気になり、しばしそのまま見つめていると・・・星から光の輪が太陽ともう一つの星を抱き込むように広がり始めた。
(な、何だ!?)
驚きに動けずいると・・・光の輪は北の星まで広がり、次の瞬間、粉々に弾け散った。
(えっ!)
弾けた光は粒となり、私の周りに雨のように降り注いだ。最初は眩しい位の光も徐々に弱くなり、地面に着くまでに淡く消えていった。
(えっ・・・何だ!?今の光の雨は!?)
何も無いことこそが平和の象徴と言われている「双星」に起こった「異常」とも言える現象だった。常人なら戦くのだろう。
だが、私は「異常」とは感じなかった。
(何故か・・・触れてもいないのに、温かく感じた・・・?)
光が現れていたのは一瞬であり、私に触れた訳ではなかったが、安心するような、心地よいような温かさを感じたのだ。突然の出来事にしばし茫然としていたその時、
--ドサッ
ちょうど私が腰掛けていた木の幹の裏側で物音が聞こえた。明らかに今まで出会ったことのある動物や魔獣ではない・・・「人」位のものが落ちる音。
(な、何だ?さっきまで「人」の気配なんて全くしなかったのに・・・)
「人」の気配に私は驚いた。これでもある程度は強い自負がある。普段は周囲の気配に敏感なのだが・・・。
(よからぬ相手かもしれない。だが、確かめないわけには・・・)
私は自分の気配を限りなく消し、ゆっくりと幹を周り込んだ。手は剣の柄に掛け、いつでも抜けるようにするのは忘れない。
まず、靴と思われる足先が見え、次いで脚が見える。どうやら幹に寄り掛かった状態のようで、動く様子もない。そのまま私は警戒を解かないままに、ややその「人」と距離を取りつつ回り込む。
(やはり、「人」か・・・ん?)
「人」だ。間違いなかった。
だが、その「人」は全く見たことのない様相をしていた。
まず、外見。髪や睫毛は全て黒鵜鳥を思わせる漆黒。肌は乳白色。瞼は閉じられているので分からないが瞳の色は何色なんだろうか。
次に服装。これもこの周辺の国では見たことのないものだ。一見すると儀礼で着用するものに近い。上着は濃紺で、内に白いシャツ、衿元に紅く長いタイを結び上着の中にしまい込んでいる。下には灰色の地に複雑に様々な濃淡の青い線の入ったズボンをはいている。
靴も紐で縛るブーツに似ているが、踝より下までしかない。
何もかも初めて見るものばかりだ。
「人」は意識を失っているのか、眠っているのか。現状で起きる気配は全く感じない。
特に危険な物を持っている様子もない。そのまま連行しても良かったのだが、ここから街までは担いでいくのはやや難儀だ。人を呼ぼうにも、その間に逃亡されてしまう可能性もある。私は、起こして連行することに決めた。意を決して声を掛ける。
「おいっ!起きろ!」
何度か声を掛けるが、起きる気配はない。揺すってみようか、と足元に立って考えていたが、ふと顔を除くと瞼が微かに動いていた。
「起きろ!大丈夫か?」
のろのろと瞼が上がり、何度か瞬いた。眩しかったのだろうか?
しばし、呆然としていた「人」を覗き込む。
瞳も--髪と同様に漆黒。
この辺りでは「希少」というべき色彩だ、と私は思った。