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第4話 再び

 騒動が起きている方へ走る。

 昼過ぎと思われる時間にも関わらず、多くの人々が買い物したり、広場へ足を進めている。その中を優輔は、ぶつからない様にかつ必要最低限の動きで避けながら進むルイを見失わないように追い掛ける。


 前を走るルイの背中を見ながら「名前以外何も知らないな」と優輔は思った。目覚めた直後は剣を突き付けられ、気が動転し恐怖を感じて、それどころではなかった。そして、自分の身の上に起こった・・・「死の現実」と「生きている事実」、更に「明らかに地球ではない世界」について・・・。考えるべきことばかりである。


 だが「走る」という優輔にとって「慣れている行動」を行うことで冷静になっていた。自分と周りを見て、考えることができそうだった。

 手始めに優輔は前を走るルイを観察しようと考えた。長距離選手の優輔にとって、人込みの中を駆け抜ける位のスピードは朝飯前であり、観察する余裕は十分にあった。


 ルイの身長は優輔と同じ位。全体的に華奢で、走りも淀みなくしなやか。質の良い筋肉を纏っているのだろうと解る。上半身を覆うのは、鈍い銀光沢を放ち首元から腰までをカバーする使い込まれた鎧で、多数の傷が見てとれる。下半身は赤銅色、厚手の革で作られたズボンに使い込まれたブーツ。先ほど鼻先に突き付けられた両刃の剣は、鎧と同素材と思われる鞘に納められ腰に下げられている。


 そういえば、顔も見ていたはずなのに「焦っていてちゃんと覚えてないな」と、今の状況からは的外れなことを考えていると、ルイのスピードが弱まり止まる。


 走ったのは距離にして200m程。見ると人垣が出来ていた。騒動はここで起きているようだ。人をかき分け中心部へ進むと、人が途切れドーナツの穴状に「開けた空間」が現れた。


 そこに身長2mはあろうかという、灰色の毛並みで全身が覆われた犬系の獣人が見えた。左腕で胸の高さに子供を抱え上げ、シミターを顔先に突き付けている。左肩に荷袋を掛けているところを見ると、あれが盗品か。

 その獣人から5m程離れて、人間2人が剣を構えて対峙している。よく見るとルイと同じような装備を身に付けていた。


「放せっ!このヤロウ!痛いだろっ!下ろせ~!!」

「おい!人質を放せっ!」

「道をを開けろ!子供を助けたかったらな?」


 灰色の獣人は逃げるために人質をとったようだ。子供は腕の中で逃げようと果敢にも抗い声を上げ、暴れているが、どんなに動いても灰色の獣人の腕はびくともしない。

 応戦している2人は、人質の解放を求めている。

 その2人にルイは後ろから声をかけた。


「大丈夫か?」

「あ、ルイ!助かった!」

「ルイさん。人質がっ!」

「わかっている。人質を助けるのが優先だ」


 ルイと2人は顔見知りのようだ。人質をどう助けるか獣人を見据えながら話をしている。


 しかし、灰色の獣人は相手が3人になったことで退路を断たれたと判断したようだ。足掻きとばかりに、人質を周囲に見せ付けるように、顔付近まで引き上げ、子供の頬に刃先を食い込ませた。子供は突き付けられた剣に身体を硬直させ、顔面蒼白となった。人垣からはあちらこちらから悲鳴が上がる。


「人質を解放しろっ!」

「街の入り口まで解放するつもりはない。道を開けろ!さもないとコイツがどうなるか、解ってるだろうな?」

「くっ!」


 子供を盾にされ、対峙している3人も成す術がない。何かすれば、子供が危険に晒される。灰色の獣人は囲まれたことへの焦りもあったが、剣を構える姿は殺気に満ちており、簡単に子供を傷付けそうであった。


「しょうがない。一旦あいつの要求を飲もう」

「だが、ルイ。あいつが約束を守るとは・・・」

「そうですよっ!絶対解放なんてしませんよ!」


 ルイは、人質の命を最優先にすることを選択したようだ。だが、仲間と思われる2人は難色を示す。当然だろう。要求を飲んだからと言って、子供が助かるとは限らない。

その間にも灰色の獣人は苛立ちを露わにし、声を荒げる。


「どうするんだ?!俺はコイツを傷付けてもかまわないんだぜ?」


「・・・っ」

「ルイ・・・」

「ルイさん・・・」

(・・・とりあえず、ここから一番近い西門へ誘導する)


 ルイは決断し、2人にだけ聞こえるようにそう呟くと、西門の方を指さしながら獣人に声を掛けた。


「わかった。門まで我々も同行する。門で子供を解放しろ」

「わかればいいんだよ。わかれば。最初から従っておけ。コイツの命が惜しいならなぁ?」


 こちらが要求を飲んだことに満足したのか、薄ら笑いを浮かべながら歩き出す灰色の獣人。獣人を恐れるように人垣が割れていく。

 ふと、優輔が子供の様子を見ると、先程まで顔面蒼白だったが少し時間が経ったことで顔付きが変わっていた。何かを狙っている顔だった。


 獣人は割れていく人垣に気分を良くしているようだった。そんな余裕で隙ができたのか、数歩歩いたところでシミターが子供の顔から一瞬離れ、更に歩いている振動で左腕の拘束も緩んだ。


 子供はその瞬間を見逃さなかった。


 暴れるのではなく、上半身を上手く使って頭を獣人の胸板と腕の間に捩じ込むように動き、腕の拘束から逃れることに成功した。だが、2m近い獣人に抱え上げられていたため着地に失敗し、2m程石畳の上をゴロゴロと転がる。


 突然の出来事に、灰色の獣人は一瞬動きが止まる。しかし、子供に逃げられた事実に気付くと怒りを露わにした。


「このヤロウ!逃げるんじゃねぇっ!」


 灰色の獣人は明確な目標--子供を狙ってシミターを振り上げる。

 その瞬間。


「危ないっ!!」

「ユウっ!!」


 ルイの呼ぶ声が微かに耳に入ってきたが、優輔は何も考えず子供の所まで一気に走り抜け、子供の身体を覆うように倒れこんだ。

 周りから再度悲鳴が上がる。

 そして。


 バシュッ


 背中から肩に掛けて、鈍い衝撃と熱さが広がる。


(あの時と同じ・・・俺また死ぬのかな・・・)


 一瞬、優輔の頭にトラックと衝突した時のことが甦る。だが、それも長くは続かず、激痛と熱さに意識を闇に手放した。

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