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第3話 街

 後ろ手に拘束され、前に押されるようにして木々の間を進む。特に会話は交わされないが、それが逆に優輔の頭を冷静にし、状況を熟思させた。


(とりあえず、何で俺はここに居るのか考えよう・・・)


 優輔は、目覚める前のことを回想した。いつも通り高校行って、部活で走って、夕飯の買い物をするためにスーパーに向かった。優輔にとっては恒常的な行動。


(いや、違う。何かあったはずだ。思い出せ。あの日は公園の横道を歩いていて、それで・・・あっ)


 そこで、優輔は自分に起こったことを思い出した。


(あの時・・・確か子どもがトラックに轢かれそうになって・・・それで俺は・・・子どもを突き飛ばして・・・)


--衝撃を受けた。


(そうだった・・・じゃあ俺は・・・死んだのか?)


 疑問に思ったが、疑問以上のことは誰も答えてくれそうにない。


(うん。とりあえず、この状況・・・だよな)


 もどかしかったが、「今」の状況を考えることに思考を切り替えた。


(俺、生きてる・・・よな?)


 夢でないことは、先程から後ろで拘束されている手首が痛むことからも、理解出来ている。ルイの、「危害は加えない」という言葉通り、力加減はされており捕まれている、という程度の痛みだが。


 死んでいるとすれば、今の状況は説明がつかない。


(まさか、ゲームやラノベでよく見る「異世界転生」とかいうやつ・・・か?)


 どんな冗談だ、と優輔は自らの考えを一笑した。そんなことは、ゲームか本の世界だ、と。

 歩いている間、優輔は自分の世界に入っており、周りは見えていなかった。ただ、歩みは止めていなかったようで、いつの間にか足元は土道から石道に、木々の間を抜けて建物の壁の間を歩いている。


 やや拓けた場所に出た。


 多数の気配を感じ、優輔は意識を自分の世界から周囲に向ける。初めての「光景」が、目の前に広がった。


 圧倒され、立ち竦んだ。


 人の営みに息づく街。


 色彩の豊かさ。


 ・・・そして、人間ではない「種族」。


 地球では有り得ない萌黄や紺青、薄紅などの髪色が至るところに見える。むしろ自分のような漆黒の方が珍しい。

 次いで、頭に犬のような耳を生やし、艶やかな毛に覆われた尻尾を持つ獣人。耳が尖り、やや人間離れした美しさを纏わせるエルフと思わしき女性。身長は優輔の腰程だが、腕や足の筋肉をはち切れんばかりに鍛え上げたドワーフ・・・他にも明らかに人外の「種族」が行き交う。ゲームでしか見たことのない風景。


(冗談じゃ・・・ないんだな)


 映画かテレビのセットだったらどれほど良かったか。それも、目の前を30cm程の大きさの妖精がウィンクしながら華麗に飛びされば、その可能性にすがることも無理だった。


「急に止まって、どうした?」


 街の様子に驚き、足止まった優輔に対し後ろから声が掛けられた。


「・・・凄い」

「何がだ?」

「全てが!」

「よくわからん」


 優輔自身、目の前の光景に興奮しきりで、何を言っているのか解らなかった。ただ、自分の知る世界とは「異なる」のだと、はっきり理解した。


 人々を一頻り観察した後、視線を上げると街の奥に城と思わしき建物が目に飛び込んできた。


「あれは・・・お城?」

「ん?あぁ。あれはこの街の領主の居城だ。公爵だな」

「へぇ」

「おっと。いつまでも停まってないで、いくぞ」


 2人が進んで来たのは、街に入るための幾つかの出入口の1つ。街の周囲は豊潤な自然が広がり、住人はその自然から食物を得る。そのため整備された大通りにある各正門の他に、住人用の生活門も各所に整備されている。


 2人は城が見える方へ歩みを進めた。次第に人通りが増えて、街並も住宅から商店や飲み屋のような商業・歓楽区域に移り変わる。どうやら中心部に向かっているようだ。


「なぁ?ところで、どこに向かってるんだ?」

「・・・」

「別に逃げたりしないよ。暴れもしないし」

「・・・『視る』と言われて解らないのか?」

「何を?」

「本当に解らないんだな・・・」

「??」

「神殿だ」

「神殿?」


(お祈り・・・じゃないだろうし、何だ?)


「・・・とにかく行けば解る」

「俺に拒否権ないだろ。行くよ」


 しばらくすると、更に拓けた場所に出た。ここが街の中心部のようだ。目の前は広場で、中央には高さ3メートル程の二段に流れ落ちる噴水があり、まだ水浴びには早い気候にも関わらず数人の子共が水辺で遊んでいた。


 その向こうには、教科書で見たことがあるような、神殿に近い建物が聳えていた。ビルで言えば8階建位だろうか。重機など無さそうなこの世界で考えればかなり大きい。

 入り口は開け放たれており、絶えず人が出入りしていた。


(あれが、ルイが言っていた「神殿」?)


「さ、行くぞ」

「お。おう」


 2人は神殿に向かい、噴水の周りを歩いていく。すると、左手に青空マーケットに似た市場が見えてきた。野菜や果物らしき品々が屋台風の店に立錘の余地もないほど積まれている。

 スーパー好きな優輔としては是非ともゆっくり覗きたいところではあったが、今は拘束された身。後で見ようと考えていると、騒がしい声が辺りに響いた。


「物盗りだぁっ!捕まえろ!!」

「あっちに逃げたぞっ!?」


 どうやら、近くで起きているようだ。後ろにいたルイから声が掛けられる。


「大人しくしていろ。逃げるなよ?」

「えっ?」


 不意に拘束されていた手首が解放された。と同時にルイは騒動に向かって駆け出している。待っていろと言われたが、優輔はとっさにルイの追い掛けていった。

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