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飼い猫の話

作者: 七節曲

リビングでソファーに座って本を読んでいると、右目の端にいつも窓が見えている。

チラリと、黒いものが動いやような気がして、読みかけの本から視線をずらす。

何も居ない。

庭木の緑と、洗濯物を干したテラス。

柔らかなタオルケットを折りたたんで敷いたキャンプチェアがあるだけだ。

動くものはない。

視線を再び本に戻す。

何十分かに一度、そんな事を繰り返している。


最近久しく生家には帰って居なかった。

リビングのソファーは、買い替えてまだ半年と経たない。

以前の物はもう端が傷だらけにされていたので、致し方ない選択だろう。

新しいソファーの角は、守りぬかれた様で、まだ新しいままだ。

少し大きくしたそうで、横を通り抜けるときに通路幅が記憶と違っていて少し戸惑う。


ダイニングで冷蔵庫から飲み物を取り出していると、足元の皿が目に入る。

5センチばかりのタッパーを台にして、茶色の乾物が綺麗に盛られている。


ダイニングに入るドアが、引き戸式に改修されていた。

扉がいくつかの板にわかれていて、開くときに折りたたまれる仕様だ。

いつも布団と毛布がしまわれている、和室の押し入れも、同じ仕様になっていた。

もともと引き戸だが、もう30年以上ある引き戸で、微妙な開け閉めはしづらくなっていた。

15センチくらい微妙に開けて置くために、そういった改修をしたのだろう。


階段にはられた絨毯。

やはり階段の縁には疎らに剥がされている。

毛羽立ち、剥げている。


寝室に行くと、壁紙のササクレがきになる。

高さ30センチくらいに、帯状に広がる。

部屋の中で壁が折れている角などは、もう少し高く腰くらいの高さに壁紙が削られ、剥がれた跡がある。

ロフトベットの横、ベッド下に入るようになっている衣装棚を手前に出して、上にタオルケットを折りたたんで敷いている。少し、真ん中がへこんでいる気がする。かつてあった重さの跡だろう。


玄関の猫用トイレ。

入れられた砂は、まだ綺麗だ。

このままずっと綺麗なままかもしれない。


リビングの棚の中、猫の写真が飾られた段がある。

大きさが疎らな7枚の写真。

いずれもこちらを向いた黒猫が写っている。

樹の幹に乗っていたり、塀の上に乗っていたり、普通に室内で撮られた物もある。


一本だけ燃え続ける線香。

世界地図の印刷された紙の化粧箱に収められた獣の骨。

12年という年月は長いけれど、過ぎ去ってしまうと呆気ない。

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