表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝、流れ星を見たんだ  作者: 瀬田
8/10

一週間前~大翔side~

 俺は病院の真っ白い天井を、ボーッと見つめていた。指を動かすことも、瞬きをすることも面倒で、ただただ何もない天井を見つめてるだけ。


「…うっ…あっ!?」


 急に喉に血の味がこみ上げてくる。反射的にサイドテーブルにあるタオルをとろうとしたけど、上半身を起こした瞬間、真っ白な布団に、赤黒い血を吐いてしまった。


「…っ。」


 力が入らず、震える腕を必死に動かし、なんとかタオルを手にとる。それで口の周りをふくと、血が新品のタオルについた。日が経つにつれて、タオルにつく血の量は多くなっていく。それを見る度に、俺はもう死ぬんだという事実を、嫌でも思い知らされた。


「…。」


 タオルをもとの場所に戻すような、赤ん坊でもできる簡単なことでさえ、もうできない。だんだんと視界が霞んできて、身体の感覚が少しずつ、なくなっていくのがわかる。


 修也とあの約束をしてから、もう一週間が経つ。修也がイギリスから戻って来るまで、あと三週間以上はあるな。修也がいなくなってからも、俺はちゃんと薬を飲んで、いい子にしてた。修也もイギリスで頑張ってるんだから、俺も頑張らなきゃって、一生懸命自分を励ましてた。だって約束、破りたくないし。


「修也…。」


 親友の名を、ポツリとつぶやく。その声はかすれていて、自分でもよく聞き取れないほどだ。


「修也…。」


 もう一度呼ぶと、目から一筋の涙が伝ったのが分かった。泣きたくなんかないのに、勝手に涙が流れてくる。一度流れた涙は、もう止まらない。


 ほんとは、イギリスになんか行ってほしくなかった。遠征頑張ってねなんて、言いたくなかった。ずっと傍にいて欲しかった。


「でも…。」


 俺なんかのために、修也をここに引き止めておく訳にはいかない。修也の夢は、プロのテニスプレイヤーになることだ。その夢を、俺が壊しちゃいけない。もうそろそろ逝く人間のために、夢を壊してほしくない。

 なのに俺ってば…ほんとおこがましいよね。口では強がっちゃってるけど、ほんとは修也を、どこにも行かせたくなかった。俺の心臓が永遠に冷たくなるまで、ずっと修也と一緒にいたかった。


「はぁ…。」


 だんだんと意識が遠のいていく。身体がふわふわと浮いているような、変な感覚になる。それでも涙だけは、しっかりと頬を伝っているのが分かる。止まることなく、次々と流れていく涙。


 あー…悔しいなぁ。


 ずっと修也の傍にいたかった。

 ずっと修也の憎まれ口を聞いていたかった。

 ずっと修也とおしゃべりしていたかった。


 あの約束を、守りたかった。


 でももうあの約束は、守れない。


 俺は目だけを動かして、窓の外を見る。何時なのかよくわかんないけど、窓の外は真っ暗。星が点々と光っているのが見える。それがいつも以上に儚く見えるのは、なんでだろう。手を伸ばしたら届きそうに見えるけど、届くはずはない。

 イギリスとは時差があるから、修也のいることろは夜じゃないだろうな。でも、同じ空の下にいることに、違いないよね。


「…。」


 瞼が重い。身体中の感覚は、まったくない。なのに涙が流れているのがわかるのは、なんでだろう。頬が濡れているのがわかるのは、なんでだろう。目に涙が、ものすごい勢いでたまっていくのがわかるのは、なんでだろう。


 でも…そんなこと、だんだんどうでもよくなってきた。今はただ、どうしようもなく眠い。


 ごめん、修也。約束、守れないよ。約束するって、言ったのにね…。俺、嘘ついてこの世から、いなくなっちゃうのか…。


 会いたいけど、今は我慢するよ。その代わりに、俺はあの夜空にある星になって、修也をずっと見守ってあげるからね。


 俺のこと、忘れないで。俺は修也の、親友だよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ