友達
五ヶ月ぶりの更新ですか、おまたせしてすいませんでした。
追記
字下げをしていなかったので4月1日に修正しました。
女王様のその言葉に一番驚いていたのは私たちではなかった。使用人たちだ。
しかし、口を挟むことは許されない。すぐに女王様が話し始める。
「話を戻すけれど……この話を前提にあるお願いをしたいの。フェライト草を取りにロフィナートの森まで行ってきてくれないかしら?」
こんな話をわざわざしたのだ、そんなことを言うとは想像していた。回答も決まっている。
私はニッコリと笑った。
「了解しました」
瞬間、女王様は真顔になる。
「今の残酷な話を聞いてもやるっていうのね?」
「はい」
しっかりと頷く。
「未練が残っていた私を呼んでくれたんです、お陰でリペラにも会えましたしね。一度死んでしまったあとで命の恩人なんて言うのはおかしいですけど、そう思えるほど嬉しいんですよ。だから、恩返しをさせて下さい」
そこでふっと笑う。
「それに、友達の頼みは断らないものですよ」
この一言は女王様にとって相当なインパクトがあったらしい、目をやたらと輝かせてこちらを見ている。どうも感動したようだ。
「本当に貴方いいわね。気に入ったわ、城に住まない?」
私は呆れた。
「……女王様、私に行ってほしいのですか、それとも留まってほしいのですか」
「そ、そうね。いけない、いけない。普段こんな風に楽しく話せる人があまりいないから、つい.....。でも、友達云々を抜きにしても、引き受けてくれたのはとても嬉しいわ」
不意に女王様の顔が曇る。何やら言いにくそうに口ごもっている。
「なんですか?」
「ええ……。実はロフィナートの森は魔獣が出るのよ」
「……何で先に言わないんですか……」
「え、だって、断られるといけないから」
思わず溜め息が出そうになった。
今まで話していて結構話が合いそうな面白い人だなと思っていたのだが、どうやら認識を改めた方が良さそうだ。案外腹黒い。それも天然で。
「心配しなくても断りませんでしたよ。……それより、魔獣とは?」
「そうね、始まりの森にもいたのだけれど、気付かなかった?」
始まりの森に……? あの、クマみたいなやつかな。
「あー、多分分かりました。大丈夫だと思います。」
「そう? じゃあ話が早いわね。あんな感じのがたくさんいるのよ」
某アクションゲームのような話だな、とどこか他人ごとのように考える。
きっと、戦って、倒して、レベルを上げて進んでいくのだろう。……ただ、一度死んだら即ゲームオーバーのデスゲームに違いはないが。
いままで黙って聞いていたリペラが、いきなり口を開いた。
「あの、女王様。私もレイラと一緒に行っても良いでしょうか?」
「ちょ、何言って――」
「別にいいわよ」
「な、女王様も勝手に許可しないでください!」
「え、私、怒られるようなこと、言った?」
女王様にそう言われて気付く。
「え、あ、すみません! 失礼なことを言って……!」
「違う違う、そういうことを言いたかったんじゃないのよ。ただ、リペラの意見を尊重することの何処がいけないのか、それが気になってね」
私は安堵した。てっきり、怒らせたかと……。
「……折角友だちになってくれた人を危ない目に合わせたくないから……」
言っているうちに恥ずかしくなってしまって、尻すぼみしてしまった。しかし、ここは引けない。リペラを説得させようと後ろを振り向く。
「だからさ、リペラ――」
「だからだよ」
「え?」
「レイラと同じ。友達を一人だけで危ない場所に行かせるなんて、私にはできない。だからさ、一緒に行こうよ」
「リペラ………」
私は出てきそうになった涙を必死でこらえた。
昨日あったばかりなのに、こんなに大切に思ってくれていたなんて……本当に嬉しい。
元いた世界にもこんな親友と呼べる人がいたのだろうか。残念ながら今はまだ、分からないが、きっといつか思い出すことだろう。
「どうやら解決したようね。……女の子だけじゃどんな危ない目に会うかわからないわね。誰か、他に行けそうな人は……」
女王様は謁見の間を見回した。
「そうねぇ、特魔から誰か………。ニズ」
ビクッと、フードが跳ねる。おそらくその人がニズなのだろう。
「あ、あの、女王様……」
フードを深く被っているので顔は見えないが、声変わり前の男の子のようだ。
だいぶ慌てている。
「ニズ、ここまで来なさい」
女王様の口調はとても柔らかかった。
その言葉のお陰か、ニズは決心したようだった。女王様の前に行き、ひざまづく。
私たちよりも女王様に近い位置にいるので表情は分からない。
「ニズ、貴方にはこの者たちとロフィナートの森へ行き、フェライト草を取ってくるよう命じます」
「……はい。私ニズ・ベルシェイラは必ずフェライト草を取って参ります」
ニズは顔を上げ、少し明るい口調で話しだす。
「ところで、女王様。森は危険な場所ですので、それ相応の装備を用意してくださいませんか?」
「当然そうするつもりよ。ただ、少し時間がかかってしまうけれど」
女王様は視線を私達へと移す。
「貴方たち、今日はここに泊まりなさい」
「え? あ、いや、でも……」
ニズが立ち上がり、元の位置へ戻っていくのを横目で見ながら、私はリペラの家を思い出す。
それを女王様は察したのか、
「リペラの両親へはちゃんと使いを出すわ。超特急でね」
と笑ってみせた。
それを聞いていくらか安心したのか、リペラの安堵の声が聞こえた。
「だったら、折角だし泊めてもらうことにします」
「わかったわ。……停泊料代わりに夜の話し相手をしてほしいのだけど」
「ふふ。友達は“停泊料代わりの会話”なんて求めないものです。雑談なんていくらでもしますよ」
その後、私達はさっきまでいた控えの間で待つことになった。