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召喚

「……え?」

 今なんて……。


「じょ、冗談……、なんでしょう……? 女王様」

「私がわざわざ冗談をいうために貴重な時間を削ると思う? この時間は私が貴方に説明とお願いをするために設けたものよ」

 女王様の口調は決して厳しいものではなかった。むしろ優しい。しかし、そのせいで本当のことなのだと信じざるをえなくなってしまった。

 この世界の人間じゃないのならなんだというのだ……。

「もう説明を始めてもいい? ちょっとだけ長いけれど」

「はい……」

 返事がしっかりとできない。思うように声が出せない。それでも頭では早く説明を聞いて納得してしまいたいと思っている。なんだか奇妙な感覚だ。

 女王様のほうは、返事をちゃんとしてくれたのが嬉しかったのか、様子を見ながら説明を始めた。


「私のお父様は前国王だったのだけれど、元々体が弱かったお父様は私が成人してすぐに王位を譲ったの。一昨年のことよ。その後は後見人という形で私を助けてくれていたわ。でも最近ある病気にかかってしまって……。その病気を治すにはフェライト草というロフィナートの森にだけ生息する薬草が必要なの」

「? フェライト草は今、輸入ができていないのでは?」

 リペラは首をかしげた。

 それに対して頷く女王様。

「本来フェライト草は隣国のレニヴ国から輸入していたのだけれど、今は休戦中だからね、輸入はさすがに無理なのよ。ロフィナートの森自体はこの国のほうが近いけれど入れないからね」

「?」

 入れない? どういうことだろう。森なら自由に入れるのではないだろうか。

 そんな私の疑問を読み取ったのか、女王様はその方向に話を持って行った。

「ロフィナートの森には私たちは入れないの。それについて、何か知っていることはある? リペラ」

「はい。魔力を一定以上持つ人しか入れない、ですよね。そして私たちロクゼル族はその条件を満たす程の魔力を持てない」

「正解。説明の仕方が上手なのね」

 またにこりと笑う。

「確かに私たちロクゼル族の中でも魔力を多く持てる一族もいるには居るんだけど……それでも足りないようなのよ。まあ、彼処に立っているローブたちのことなんだけどね」

 女王様は壁際に立っている数人に目を向けた。

「彼らは特別魔法部隊、通称・特魔といって、ベルシェイラ家の者達よ。直接血を受け継いだものは何故か、持てる魔力の上限が普通の三四倍あってね。ちなみに、レニヴ国のリシュラール族は私たちの約十三倍と言われているわ」


 魔法だとか、隣国がどうとか、今まで正直理解しきれていないところがあったが、だんだんわかってきた。

「つまり、」

 私は言葉にすることで頭のなかを整理することにした。

「薬草を採るためにはその、隣国の人達と同じくらい魔力を持った人がいないとダメ、ということですか……?」

「あら? 今まで黙っていたからわかっていなくて混乱しているのかと思っていたけれど、そうでもなかったようね。まあ、要約するとそんな所」

 女王様はしゃべり疲れたのかふうっと息を吐いた。そしてまた話しだす。

「貴方がここにいる直接的な理由はこの先よ。少し前、困り果てた私は魔力を大量に持てる者を召喚すればいいことを思いついたの。そこからまる二日準備を続け、二日前、召喚する者を決める儀式が行われた。その時、ある世界のすぐ外側に残留思念としてギリギリ存在していた貴方を見つけたのよ」

「残留、思念?」

 聞きなれない言葉に首を傾げる。意味自体は分かるのだが“私の”残留思念とはどういうことだろう。

「そう。これはベルシェイラから聞いたんだけど、世界のすぐ外側に残留思念が漂っているのはよくあることで、何でそうなるかというと……」

 最初の重大発表もはっきりと女王様が珍しく口ごもる。しかし、すぐに意を決したのか、また話し始めた。

「その世界で何か未練を残して死んだからだって」

「……―――……?」

 耳を疑うというのはこういうことだろう。私は聞き間違ったと思った。

 だって私はここにいるではないか。私が死んだ? いつ? そんな記憶は―――


 ―――………――――……


 なんだろう。何かを思い出しかけたような……。


 ――……ザザッ………ザー……―――――バチッ


「っ!」

 嗚呼、夢、今日見た夢、思い出した。

 内容は―――

「ああ……うぁ、思い、だ、した」

「何? どうしたの?」

 自分のことで精いっぱいで気付かなかったが、リペラと女王様は私をずっと心配そうに見て、声をかけていたらしい。

「私、本当は記憶戻ってたんだ……忘れていただけで……」

「ほんとに!?」

「ほんのちょこっとだけだけど」

「それでも思い出せたのなら―――」

「死んだときのこと」

「っ!」

 ー瞬固まるリペラ。あらゆる感情が入り混じった表情をしている。

 対して笑う私。

「大丈夫、大丈夫だから」

 私は泣きそうなリペラの肩をポンポンとたたく。

「リペラが泣いてどうするの」

「だってー」

 私はしかたがないというふうに笑ってから女王様を見た。

「女王様、お話を止めてしまい、甲し訳ありませんでした。説明を続けて下さいませんか?」

「え、ええ。でも、本当に大丈夫?」

 女王様はさっきの発言を本当に気にしているようで、顔には後悔していると書いてある。

「本当に大丈夫ですよ」

 別に強がっている訳ではない。本当に大丈夫なのだ。確かにただ単に『貴方はもう死んでしまった』と言われたら、怒っていただろう。しかし、夢でもミていたのだ。そんな偶然、なかなかないだろう。だから納得した。受け入れた。まだ心の奥底では否定しているが。

「……わかったわ。じゃあ話を続けましょう。……世界の外側にいる貴方を見つけた私たちは貴方を招喚することに決めた。招喚の儀は一応上手くいった。ただ、最後の最後で貴方をどの場所に招喚するかまでは、魔力が足りなくて設定ができなかつたの。だから貴方はこの国じゃなくて、はじまりの森にいたのよ。それをあらかじめ想定していなかった私たちは、招喚されたはずの貴方にある簡単な魔法をかけた。この国へ辿り着けるような、ね」

 言われてみれば、ここに辿り着けたのは偶然、いや奇跡に近い出来事だったと今さらながらに気付かされる。途中枝を倒して(しかもその逆を)進んできたのにほぼ最短距離でこの国に着いたのだ。もう少し早く気付いたってよかったような気もする。

「魔法をかけたって言っても強制力はそんなに強くないから“ふらふら歩いていたら着いてた”位のものだけどね。どちらかと言えば“おまじない”に近いのかしら? その辺りはプロってわけじゃないからよくわからないけれど。……とりあえず『説明』はひと通り終わったわ。何か、質問だとかそういうものはある?」

「……逆にありすぎて何を質問していいのやら。でもま、大丈夫です。リペラはどう?」

 私はリペラを見た。さすがにもう立ち直っていて、涙も完全に引っ込んでしまったようだ。さっきほどひどい顔はしていない。

「うーん。うん、うん……んー、多分大丈夫」

「いや、それ大丈夫じゃないでしょ」

「かも知れない。まず、前提からよく分かってないしね。私たち、魔法の存在は知ってるけど、使ったことは一切ないし、使っているところを見たこともないから、いまいち現実味がなくて。あと一週間かかってもわからないかも」

「フフッ」

 不意にずっと楽しそうに見ていた女王様が吹き出した。

 私は女王様が何で笑ったのか分からなかった。

「貴方たち、ほんとうに面白いのね。私の周りには貴方たち位の歳の子は特魔くらいにしかいないからつまらないのよ。本当、友達になってほしいくらい」

 その言葉に私はつい反応してしまった。

「私も女王様と友達になりたいです」

「え?」

 しまった! 反射で答えてしまったけど、無礼と思われてないかな……。

 数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは女王様だった。

「……じゃあ、お願いしちゃおうかしら」

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