SS1 「科学の進歩」
科学技術の発展が遅々と進まなくなってから早30年が経つ。
エヌ氏はその現状を憂い、長い付き合いになる友人を自宅に招き愚痴をこぼした。
「なあ、本当どうしてしまったんだろうな。目新しいものが何も生まれてきやしない」
「そうだな」
「俺が子どものころは、空飛ぶ車が街に飛び交い、タイムマシンで好きな時代に旅行できて、ワープ装置で宇宙の何処へでも行けるようになると思っていたら、本当にその通りになってしまった。確かにここまで来たら、もうこれ以上の発展は望めないのかもしれないけどさ」
「ううむ。今の子どもは、そのような未来への期待とか想像とかができないのかもしれない」
ウイスキーグラスを傾け、友人はぼそりとそんなことを言った。
「それでは子どもの教育に良くないな」
「その通りだ。何か良い方法はないものか・・・・・・。子どもが科学の進歩に夢見る世界を作る方法は・・・・・・」
友人の嘆きを聞きながら、グラスに残っていたウイスキーをあおる。からりと氷が溶ける音がした。
「いや待てよ」
「どうした?」
「お前ならできるじゃないか」
友人は力強くテーブルにグラスを置くと、エヌ氏の目を真っ直ぐ見つめた。
「それは・・・・・・」
「そういうことだ」
そして次の日、執務室にてエヌ氏は某国に向けて核爆弾の発射スイッチを押した。