第1話
[主な登場人物]
神無月ミコト:主人公。自身の魔法能力を危険と判断、殺人犯に仕立てあげられてしまったことで学園に入学する。灰罪寮•観察裁定クラス所属。
鴉城クロウ:学園長。デスゲームの開始を宣言し、恐らくデスゲームの"真実"を知っている者。
──ここは、罪を犯した者だけが入学を許される学園。
そう説明された時、正直に言えば、私は何も感じなかった。
罪を犯した覚えなんて、ないからだ。
石造りの重厚な門をくぐると、視界に広がったのは、どこか現実離れした美しい校舎だった。空はやけに澄んでいて、風も穏やかで、ここが“隔離施設”だと言われても、すぐには信じられない。
けれど。
周囲にいる新入生たちの空気は、どこか歪んでいた。
笑っている人もいる。緊張で固まっている人もいる。けれど、その全員が、どこか同じものを抱えているように見えた。
──“罪”。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
そんなもの、私には関係ない。
……関係ないはずなのに。
どうして私は、ここにいるのだろう。
案内された大講堂は、すでに多くの生徒で埋め尽くされていた。ざわめきが、天井の高い空間に反響している。
やがて、壇上に一人の男が現れた。
黒を基調とした装い。無駄のない立ち姿。静かに眼鏡を押し上げる仕草。
──この学園の頂点に立つ者。
「ようこそ、《有罪学園》へ」
柔らかな声だった。
優しくて、落ち着いていて、どこか安心させるような響き。
それなのに。
その人の目だけは、妙に冷たく見えた。
「私はこの学園の学園長。鴉城クロウと申します」
丁寧な挨拶に、まばらな拍手が起こる。
隣の席の女子が、小さく息を漏らした。
「なんだか……普通だね」
「……そうだね」
思わず同意する。
もっと威圧的で、冷酷な人間を想像していた。
でも目の前の男は、どこにでもいそうな、穏やかな大人にしか見えない。
──だからこそ。
次に放たれた言葉は、あまりにも唐突だった。
「さて。早速ですが本題に入りましょう」
空気が、ほんのわずかに引き締まる。
「この学園では、皆さんに“デスゲーム”に参加していただきます」
一瞬。
本当に一瞬だけ、何も理解できなかった。
ざわめきが遅れて広がる。
「……は?」
誰かの声が、間抜けに響いた。
笑い声も混じる。
「冗談でしょ?」
「入学式でやるネタじゃなくない?」
「え、何それ」
当然だ。
そんな話、現実にあるわけがない。
私だって、そう思った。
壇上の男は、変わらない微笑みを浮かべたまま、続ける。
「安心してください。ルールは非常に単純です」
その“安心してください”という言葉が、やけに耳に残る。
「この学園では、1日に1度だけ、“事件”が発生する可能性があります」
ざわめきが、少しだけ弱まる。
「そして、死体を発見した者は、必ず放送室にて全校へ通達を行うこと」
……まだ、冗談にしか聞こえない。
けれど。
「放送が行われた時点で、裁判を開始します」
その声は、どこまでも穏やかで。
「証言、捜索、そして犯人の特定」
淡々と。
「犯人には、私の権限で“処罰”を下します」
あまりにも自然に。
「なお、犯人を特定した者は、成績が上昇します」
まるで、それが当然の仕組みであるかのように。
「皆さんには、この環境の中で“正しい選択”を学んでいただきます」
誰も、笑っていなかった。
さっきまでの軽い空気が、ゆっくりと消えていく。
……いや。
違う。
笑えなくなっているのだ。
「……ねえ、これ」
隣の女子が、今度は小さく呟く。
「……本気、だと思う?」
私は答えなかった。
答えられなかった、の方が正しい。
ただ一つだけ、分かることがある。
壇上の男は。
最初から、一度も──
冗談を言っている顔をしていない。
「それでは、良き学園生活を」
軽く一礼する。
その瞬間。
大講堂は、完全な静寂に包まれた。
──これが。
私たちの、“日常”の始まりだった。




