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一つの時代の終わり

作者: 小雨川蛙

 ある日。

 愛の女神が王宮に雷を落として叫んだ。


「生贄をよこせ。この国に生きる全ての子供をよこせ」


 女神の乱心に人々は荒れに荒れた。

 数えきれないほどの神官が女神に凶行の意義を問うたが女神は答えなかった。


 唯一。

 王だけが女神の言葉に従った。


「子供を皆、捕らえよ。全て捧げよ」


 王は神の次に偉い者。

 それでいながら、神ではなく人だ。

 故に大臣たちはこぞって王へ問う。

 この凶行の意味を。


 しかし、王は何も答えなかった。

 ただ一言。


「従わねば首を刎ねる」


 神も王も狂った国から人々は逃げ出した。

 しかし、逃げ切れなかった者の方が多かった。

 王の率いる兵士により子供達は捕らえられ次々に生贄として女神の住まう御国へ送られた。


 贄となった子供達は二度と帰ってこない。

 当然だ。

 既に子供達は女神のものなのだから。



 *



 王と女神の凶行はやがて他国にも知れ渡るようになった。

 それを聞いた他国の王は不自然なほどに早く侵略を開始した。


『狂った王を殺せ』


 大義をそう掲げながら。

 侵略した国の民を奴隷にしながら、奪い取った土地を好き放題に荒らしながら、他国の王は突き進み、遂には王の下へたどり着く。


「子供達はどこに送った」


 他国の王の言葉に王は答えた。


「女神の下へ」

「狂人が」


 その言葉と共に首は刎ねられた。

 こうして女神と共に生きた国は滅び去ったのだ。

 奴隷になった者も、他国へ事前に逃げ出した者も口を揃えて新たな王に尋ねる。


「女神はどうなりましたか」


 新たな王は苛烈で無慈悲な王だった。

 だが、それ以上に現実に即した王でもあった。


「女神など存在するはずないだろう」


 ただ一言で全てが終わらされてしまった。

 あるいは夢が終わったとでも言うべきだろうか。


 神様と人間が一緒に生きる時代は終わったのだ。



 *



「女神様」


 贄に捧げられた子供達が女神に問う。


「いつになったら僕らは帰れるのですか?」


 女神は集められた子供達を優しく抱きしめながら答えた。


「もうあなた達は二度と戻れません。だってもう」


 女神は呟くように言葉を落とした。


「地上には愛は二度と蘇りませんから」




 神様と人間が一緒に生きる時代はとうの昔に終わったのだ。

 そして、終わったものは二度と蘇ることも――。

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