風鈴と俺 ー風に吹かれてー
隣の家の風鈴がうるさい。
短冊の代わりに、A5サイズの絵のついた紙がぶら下がり、優美とは言い難い音をたてている。
深夜帰宅して、壊れたエアコンを睨みつつ、窓を開ける。
文句を言う勇気もなく、誰か言ってくれることを期待しつつ、電気を消して布団に入る。
ガラガラン
それにしてもひどい音だ。
自分の許容以上の大きさのものをぶら下げているから、風鈴も辛いのかもしれない。
そう考えると、急に風鈴に同情の気持ちが湧いてきた。
今日のことが頭をよぎる。
「これ頼むわ!」
そんな簡単な言葉で、人に仕事を押し付けて帰った同僚。
そのままにして帰りたい。
でも机に座りなおし、気づけば日にちが変わっていた。
今まさにガラガラ音を立てている風鈴が、まるで自分の代わりに泣き叫んでいるかのような気持ちになった。
辛いよな。
自分の許容を超えたものを持たされるのって。
次の休日、文具店に出かけた。
風鈴の家の前を通ると、おばあちゃんが庭仕事をしていた。
「こんにちは。素敵な風鈴ですね。」
思わず声をかけた。
「ありがとう。でも短冊が取れてしまって。孫がいらないって置いていったシールをつけてみたんだけど、変な音になっちゃって。」
おばあちゃんは、寂しそうな愛おしそうな顔で風鈴を見つめている。
「あの、これ……」
手に持っていたものを、そっと見せる。
すると、
「まあ!素敵!それをつけてくださるの?」
「よ、よろしければ。」
口ごもりながら答えると、
「嬉しいわ!」
ぱあっと笑顔になり嬉しそうに言ってくれた。
俺は、シールをそっと外し、手に持っていた手作りの短冊につけかえた。
チリリン
軽快な涼やかな音色が響く。
「今までで1番いい音!ありがとう!」
いつもしない行動。
俺の勝手な思いで作ったのに、笑顔でありがとうと言ってもらえた喜び。
次の日。
「頼むわ!」
また同僚が俺の机に仕事を置こうとしている。
その時、
チリリン
あの風鈴の音が聞こえた気がして、思わず椅子から腰をあげた。
「どうした?急に立ち上がって。」
俺は俯いたまま、
「ごめん。今日はごめん。」
「用事あるのか?」
たくさん頷いてみた。
「分かった。」
「え?」
ぱっと顔をあげると、
「お疲れ。」
そう言って、同僚は自分の机に戻っていった。
「お疲れ様。」
いつもしない行動。
断れた。
チリリン
あの風鈴の音が聞こえる。
もうすぐ俺の手作りの短冊をぶら下げて、愛嬌よく心地いい音を奏でる風鈴が見えてくる。
自然と歩くスピードがあがった。




