1-7 魔将の誕生2
グロ表現があります。苦手な人は読み飛ばして下さい。
聖女の白い肌に裂け目が走った。
その隙間から覗くのは、柔らかい肉ではなく、光を孕んだ鱗。
それは七色に揺らめき、艶かしく毒々しくも華やかさを纏っていた。
「……冷たい……でも、美しい……」
白金の髪が散り、裂けた口が耳まで届く。
細く分かれた舌が空気を舐め、甘い湿り気を漂わせた。
頸から肩、そして胸元へと鱗が波のように流れ、
滑らかな曲線の身体を覆っていく。
「光が……眩しすぎて、見えない……」
その言葉と共に、光が滅びた。
祝福は毒を帯びた燐光に変わり、
黄金の瞳が開かれる。
それは、もはや人の瞳ではない――
縦に裂けた瞳孔は見る者の理性を融かす、魅了の輝きを宿した眼だった。
腰から下の肉が蠢き、溶け、白磁の脚が絡み合ってひとつの蛇の尾へと変わる。
鱗が床を這い、金属の擦れるような音を響かせた。
かつて“癒し”であった者は、
今や“魅惑と毒”の化身――鱗妃へと堕ちた。
賢者の体を流れていた血は、墨のように黒く変わり、やがて滴ることすらやめた。
肉は自らを拒むように腐敗し、骨が軋む音が静寂を裂く。
それでも彼は笑っていた。
「……ついに、究極の知へ至る」
皮膚が落ち、筋が崩れ、ただの骸がそこに立つ。
紅い焔が空洞となった眼窩に宿り、手にした魔導書は漆黒に染まった。
頁の上では、血文字が蠢き、死者の名を列挙する。
呼ばれた魂は抗えず、腐肉を引きずりながら彼の前に跪く。
理を求めた男は、生命の理を踏み越え、死を支配する王――骸王と化した。




