1-6 魔将の誕生1
グロ表現があります。苦手な人は読み飛ばして下さい。
次に魔王が指を鳴らすと、瘴気が触手のように伸び、神託パーティーへと襲いかかった。
抵抗は無意味だった。瘴気は肌に絡みつき、血肉を染めていく。触れた箇所から、彼らの姿が崩れ、異形へと変貌していった――かつて戦った悍ましい者たちへと。
天を裂くような咆哮が、魔王城の大広間を震わせる。
瘴気は渦を巻き、黒き霧となって天蓋へと昇る。
それは嘆きでも、叫びでもない。――新たなる“創造”の鼓動だった。
瘴気は生者の肉を選び、絡みつき、侵し、分解し、再構築していく。
人の形を塗り潰し、別の秩序を刻み込む。
聖騎士の筋肉が膨張し、白銀の鎧が悲鳴を上げて裂けた。
血肉の奥から滲み出すのは、赤ではなく漆黒の硬殻。
皮膚がひび割れ、筋繊維がねじれ、肉の奥に無数の節足が伸びていく。
「……アア、コレガ……チカラカ……」
その声はもう人のものではなかった。
背中から生えた脚が地を這い、羽が重々しく開く。
甲虫の羽ばたきが空気を切り裂き、
その音はもはや祈りではなく――鼓動の代わりに鳴る破壊の旋律。
顔の皮が剥がれ、八つの無機質な複眼が現れる。
あらゆる方向を見渡す眼には死角など存在しない。
「ミエル……スベテガ……」
その囁きと共に、彼の中の理性が音を立てて崩れた。
守護の盾は魔王に仕える甲殻となり、神を讃える口は世界を噛み砕く顎へと変わる。
かつて“守る者”であった男は、
今や“支配する災厄”――蟲帝となった。




