1-5 勇者が去った後
俺は瞬時に用意していた移転のスクロールを手に取り、展開する。
魔術が扱えない者でも、魔力を流せば動く。そう教えられていた術式だ。
「お前、一体何を──!」
怒声が飛ぶより早く、俺は言葉を残して消えた。
「今までありがとう。後はよろしく」
言い捨てて、俺は世界の隙間に滑り込む。仲間たちの前から、完全に消失した。
暫くすると聖剣から、黒く粘る靄が立ち上り始めた。
その靄はすぐに形を取り、倒したはずの魔王の輪郭をなぞる。
「意外と早かったな」――低く、古い声がつぶやく。そしてその右手をひと振りすると、その身振りだけで何かが城を覆い尽くすように広がった。
「これで城内では魔術は使えぬ」
仲間たちは青ざめた。言われなくてもその感覚で分かってしまった。
魔術を封じられたなら、戦えるのは弓と盾と、ナイフの物理だけだ。勝ち目などない。彼らの顔に、初めて恐怖が浮かぶ。
魔王は柔らかく笑い、言葉を続ける。
「四人か。なかなか良い器が手に入ったようだ」
魔族は瘴気――凝縮した魔素の塊だ。器があれば、離散した魔素は容易に集まり、新たな生命を為す。
その目は、何かを計算するように冷たく澄んでいた。




