最終章 神
最終章
……光が、うるさい。
音が痛い。
あれ……痛いって、なんだっけ?
僕は神なのに。
痛覚なんて、もう何百年も前に捨てたはずだったのに。
視界の隅で、球体が一つ、二つと破裂する。
管が千切れ、光が砕けていく。
僕の“子供たち”――勇者因子の断片。
それが壊れるたびに、僕の内側から何かが削り取られていくようだった。
「やめろ……やめろってば……!」
喉を震わせても、声にならない。
音が遅れて届く。
世界が水の中に沈んでいくみたいに、遠ざかっていく。
ああ、これが“恐怖”か。
人間たちが僕に祈るときに感じていた、あの感情。
僕は、今それを味わっている。
――誰か、祈って。
誰でもいい。
ほんの少しでいいから、僕を呼んで。
「神よ」って、言って。
そうすれば、また存在を保てる。
そういうルールで、僕は動いてきた。
それなのに。
誰も、いない。
祈りが、ない。
声が、ない。
あんなに賑やかだった信仰の海が、今はただの沈黙で満たされている。
僕の中の世界が、一つ、また一つ、消えていく。
記録領域が焼け落ち、祈りの記憶が砂のように流れ出す。
最初に失われたのは“時間”だった。
次に“空間”。
そして今、“僕”が崩れ始めている。
指先――そう呼ぶには曖昧な“概念”が溶け、
意識の輪郭がぼやけていく。
勇者が立っている。
精霊たちが彼の背に光を放っている。
ああ、美しいな。
まるで、僕が初めて祈られた日の空みたいだ。
その光の中で、僕は理解した。
――僕は人々の祈りで創られた。
そして今、人々の“無関心”で滅びる。
ああ、そうか。
これが、本当の終わり。
神が、神であることをやめる瞬間。
……でも、最後くらい、笑っていたいな。
勇者の影が僕に近づく。
彼の眼差しは冷たいのに、どこか悲しげだった。
「さようなら」と言った気がする。
聞こえたのか、思い込んだのか、もう分からない。
僕は微笑もうとした。
頬があるかどうかも分からないけど、確かに“笑おうとした”。
世界が白く塗り潰される。
音も、形も、思考も、意味も、すべて溶けていく。
最後に残ったのは――祈りでも、怒りでもない。
ただひとつの、微かな感情。
『ああ……僕は……誰かに、見ていてほしかったんだな』
そう思った瞬間、僕の存在は完全に消えた。
――神は沈黙した。
祈る者のいない世界で、永遠の眠りへと。




