1-4 魔王封印
「さあ、魔王よ。これで最後だ」
俺は静かに聖剣を構え、その心臓に突き立てた。
黒い衝撃波が吹き荒れ、刀身が闇に染まる。
魔王の輪郭が崩れ、霧のように消えていった。
静寂。
そして、仲間たちの嘲笑。
「やっと農民の下働きから解放される」
「この汚らしい旅も終わるのね」
「神託でなければ、こんな者について来なかった」
「これで森に帰れるのね」
誰も、俺を見ていなかった。
ただ“勇者”という歯車が役目を終えたことを、喜んでいるだけだった。
――この世界は、すでに壊れている。
俺は仲間のもとへ歩いた。
その顔ぶれは、どれも誇り高く、どこか冷たかった。
一人ずつ目を見て、問いを投げる。――お前は、本当に俺を勇者だと認めているのか、と。
「農民風情が思い上がるな」
「認めませんわ」
「例え神託であっても認めるものか」
「私は始めから認めていない」
魔王を無事に封印した今だからこそ本音を漏らす。
その言葉は、鋼より冷たく、刺すように俺の胸を貫いた。
最後の一人の口が、微かに歪む。俺は笑いを噛み殺して答えた。
「ああ俺も、自分が勇者だなんて認めない」
その瞬間、空気が弾けるように鋭い音を立てた。硝子が砕けるような音が。




