5-6 システムの破綻
「やっばい、やっばいヤバいヤバいヤバい!
ちょ、待って待って待って、何で切れてるの!?」
神は慌てて複数のウィンドウを開き、
プロセスを巻き戻そうとするが、どれも応答しない。
信仰ポイントを使いすぎたようだ……演算にも影響が出ている。
神はゆっくりと顔を上げた。
その“目”に宿ったのは怒りでも焦りでもない。
――純然たる戦慄。
「……やばい。本気で、書き換えられてる。」
ターミナルが赤く点滅し、
ラボ全体を覆うように一行の文字が浮かび上がる。
> 《新たな管理者権限を検出――認証名:勇者》
神の喉が、音もなく鳴った。
「…………は?」
その瞬間、世界の“神”は理解した。
勇者はもはや歯車ではない。
歯車を回す側に立っていたのだ。
「そんなの想定してない!
勇者なんて、聖剣に魔力を充電する発電機みたいなものじゃん!
何で勝手に聖剣手放して生きてるのさ!
ましてや大精霊育ててるわ、元魔王まで協力してるわ、そんなの聞いてない!」
神は叫びながら、両手をばたつかせる。
だが、その姿を見ている者はいない。
真白な空間で、神の声だけが反響し続ける。
「そもそも勇者の称号を“捨てる”って何さ!
あれは勇者が暴走した時のための“保険”なんだよ!?
聖剣とのリンクを切り離して魔力を断つ――そうすれば暴走は収束して死ぬはずなんだ!
死ぬんだよ、分かる!? そうじゃないとシステムが閉じない!」
手元のキーボードが打ち鳴らされ、コマンドが何百行も流れていく。
だが、返ってくるのは沈黙だけ。
エラーも、警告も、もう表示されない。
システムが、神の意志から外れて動いている。
「僕が悪いの……?
だって、みんな望んでたじゃないか。
“救われたい”って、“世界を守りたい”って。
だから、僕はその願いを叶えただけ。
役割を与えて、祈りを集めて、みんなを繋いで……
それの、何が悪いの……?」
神は笑った。だがその笑みは震えていた。
笑えば壊れないと思っていた。
だが、胸の奥が熱い。――痛みだ。
心なんてとうに捨てたはずなのに、まだ残っていた。
「ちょっとサイクルが短くなるけど……これで魔王が復活して、元に戻るはずじゃん。
……そうだよね? ねえ、誰か、返事してよ……?」




