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歯車の反撃  作者: クローン6号
第五章
38/43

5-5 焦る神

――神のラボ。


そこは聖域ではなく、神のラボ"製造工場”だった。

外界に放つための勇者因子、そして魔族の根源たる瘴気発生装置が、この場所で循環している。

神の存在を維持し、信仰を増幅するためのシステム。


管の一本一本が、外界とこの場所を繋ぐ血管のように脈打ち、

光る液体が“祈り”の代わりに流れ込んでいた。


神は浮遊するターミナルの前に座っていた。

その指先が虚空のキーボードを叩くたび、空中に新たな球体が生まれ、

黄金の光が一つ、また一つと生成されていく。


「……勇者の因子、複製進行率43%。

 でも発芽しないんだよねぇ~……」


軽い口調に反して、声の奥には焦りが滲んでいた。

神は足を組み、退屈そうに液体の波紋を眺める。


「まぁ、原因は分かってるんだけどさ。

 元勇者がまだ生きてる限り、新しい勇者因子は起動できない。

 システムの仕様だよ、これ。」


軽く笑いながらも、その笑みはどこか苛立っていた。


「勇者なんてさ――聖剣に魔力を流し込むための発電機みたいなもんでしょ!?

なんで勝手に聖剣手放して、生きてんの!?

あれ、完全に封印維持用のリソースでしょ!? 仕様外もいいとこ!!

聖剣とリンクが切れた勇者は、魔力暴走を起こして消滅するようにプログラムされてて

それで魔王が復活して、また封印されて、また勇者が生まれて……

そうやって世界は回ってきたじゃないか!

あれで良かったんだ、あれが“完璧”なシナリオだったんだよ!」


声が次第に掠れ、神は額を押さえる。

視界が霞み、記録の中の勇者たちの死が走馬灯のように再生されていく。

幾百の勇者、幾万の死。

祈りのために、信仰のために――それは神にとって“必要経費”だった。


神は宙に浮かぶログをスクロールしながら、

独り言のようにため息をつく。


「管理者権限でも修正できないとか……あり得る?

 僕、神だよ? 神なのに?」


試しに数行のコマンドを叩くが、モニタの表示は変わらない。

《アクセス拒否:ルート権限がロックされています》


「え?……誰がロックしてんの?」


沈黙。

そして神は、こめかみを押さえた。


「コンソールもモニターも僕の一部じゃん!

 ましてや演算は自分でやってるようなものでしょ!?

 何で外部からアクセスできるのさ! 絶対おかしいよね!?!」


声が次第に上ずる。

焦燥と怒りと、そしてほんの少しの“恐怖”が混ざっていた。


「存在が消えかかってる……ま、まだ大丈夫。

 こっちは“魔王β版”で十分だし。

 勇者のコピーは……まだ光の塊で使いものにならないし。」


そう言って、球体の中の黄金の光を指先で弾くように眺めた。

波紋が小さく広がり、再び静寂が戻る。


そのとき――神がふと顔を上げた。

眉が跳ね、口角が引き攣る。


「……まさか、そんな。」


脳裏を貫くような感覚。

瘴気発生装置――あの黒き球体の気配が、突然、消えた。


「マジか……マジで?」


虚空のログが一斉に赤く染まる。

《プロトコル切断》《瘴気制御中断》《対象データ消失》

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