5-3 偽魔王
勇者と魔王――
相反する存在が、同じ敵を見据えた。
神がもたらした“システム”を滅ぼすために。
だが今、目の前の球体から生まれつつあるもの――
それは神が造り出した“代替体”だ。
かつての魔王のデータを参照し、元勇者を討つために再生成された“模造品”。
「これをこのまま完成させるわけにはいかない。」
球体の表層が裂け、
瘴気が竜巻のように吹き荒れる。
やがてその中に、角と翼を備えた影が見えた。
かつて魔王であった存在を模した虚像。
その咆哮は、空間をひび割らせる。
「瘴気の方が、お前の身体に合ってるかと思ったんだが。」
俺が皮肉を言うと、
闇の大精霊はわずかに笑った。
「今となっては瘴気は毒だ。
我は“人の魔力”で蘇ったのだぞ。」
「なるほど……今さらだな。」
軽口を交わしながらも、足元に魔法陣を描く。
床はない。だが、魔力を通した陣をイメージ通りに展開すると陣は成立する。
「さて――“偽魔王”には、光の大精霊に相手をしてもらおうか。」
俺が腕輪を掲げると、
純白の閃光が空間を裂いた。
眩い羽を広げ、光の大精霊が舞い降りる。
「懐かしい気がする……闇を払うのは、聖女の役目だったな。」
光と闇、相反する存在が並び立つ。
そして、その二つを媒介として、
俺の体を中心に六色の魔力が螺旋を描いた。
「神の目が曇っている今が好機だ。」
闇の大精霊が告げる。
「この因縁に、決着をつける。」
黒と白がぶつかり、
空間が轟音とともに裂けた。
――神の造りし虚像。
――勇者と魔王の連合。
再び、世界の“起点”が火花を上げた。
その光の中で、
俺は確かに見た。
白い虚空の向こうで、
“誰か”がキーボードを叩く姿を。
無言で、光の大精霊が動いた。
その瞬間、空間の温度が一変する。
白い炎が降り注ぐように迸り、光の矢が無数の軌跡を描いた。
それは祈りにも似た輝き――だが、慈悲ではない。
かつて“聖”と呼ばれたものが放つ、純粋な破壊の意思だった。
偽魔王は咆哮を上げた。
裂けるような音と共に、瘴気の奔流が迸り、
影が刃のように飛び交う。
その一撃一撃が虚空を裂き、
光と闇の境界を曖昧に染め上げていく。
「光が……喰われていく!?」
火の大精霊が警鐘を上げた。
しかし、光の大精霊は怯まなかった。
まるで天そのものを切り裂くように、翼を広げ、
降り注ぐ瘴気を一条の光で貫いた。
その閃光が、偽魔王の胸を貫いた。
黒い球体の核が露わになる。
そこには、神の造り出した“命令文”のような紋章が
無数に浮かび上がっていた。
――創造。支配。抹消。
神のシステムの断片。
「そんなものに……世界を弄ばせるか!」




