5-2 闇の精霊
色も、音も、空気さえもねじ曲がる。
木々の輪郭が波打ち、影が逆流する。
まるで世界そのものが、俺の意識を“別の層”に押し込もうとしているように。
「……来たか。」
呟いた声は歪んだ空間に吸い込まれ、
反響するように返ってくる。
――その声には、聞き覚えがあった。
かつて、世界を創り、歯車を回した“あの声”。
今、神が――俺の精神世界に干渉を始めた。
歪んだ視界の先で、俺の意識は完全に“あちら側”へと引きずり込まれていた。
壁も天も床もなく、ただ圧倒的な“黒”が空間を支配していた。
中心に――巨大な球体が浮かんでいる。
まるで夜そのものを凝縮したような、
深淵の塊。
表面からは絶え間なく瘴気が噴き出し、
その影は蠢きながら“何か”の形をとり始めていた。
「……嫌な気配だな。」
思わず腕輪を見やる。
次の瞬間、六つの魔石が光を放ち、
それぞれが異なる色で震え始めた。
俺は即座に精霊召喚の魔法陣を展開する。
「落ち着け。あれは我ではない――似て非なるものだ。」
低く響く声が背後から聞こえた。
振り向けば、闇の大精霊――いや、“魔王”がそこにいた。
漆黒の影をまといながらも、
その瞳は穏やかで、俺の知るどんな闇よりも深い。
あの夜――魔王との密会の記憶が脳裏に蘇る。
聖剣を掲げる直前、俺に手渡された腕輪。
その黒い魔石の中に、奴自身の“魂の欠片”が封じられていた。
魔王は瘴気によって形成された肉体を解き、
魂の一部を“闇の精霊”として再構築した。
そして、俺の魔力に適合する瞬間を待ち、再び融合を果たす――。
それは、魔王にしかできぬ魂の錬成術。
この世界における“反則”の極みだ。
「……結局、俺とお前は同じだな。
神のシステムに弄ばれた、使い捨ての器。」
「そうだ。そして、我らは決めた。
システムそのものを、砕く。」




