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4-9 亀裂の芽
打ち込まれた文字列が、白の虚無を渦巻く。
歯車状の光輪が一つ、二つと回転を増し、螺旋のように加速していく。
生成プロセスは儀式に似ていた。
輝きと影が交互に脈動し、光が形を、影が意志を生む。
出来上がるものは、“個体”でも“役割”でもない。
精密にプログラムされた使役者――だが、それは完全体ではなかった。
偶然か、それとも必然か。
神はその危険を理解しつつ、結果を優先した。
「出来上がるよ。試験運転は短めにね。」
神は片手で杯を掲げ、軽く喉を潤す。
無邪気な仕草だが、瞳の奥には狂気が宿っていた。
代替体はまだ未熟。
だが目的は果たすだろう。
封じられたはずの魔王の影を探り、腕輪の住人を揺さぶり、“半端な勇者”を排除する。
それで人々の祈りは、再び厚みを増す。
最後のコマンドが打ち込まれる。
虚無が裂け、黒い種子のようなものが落ちた。
ざわめく存在の気配。
白い空間に、ゆっくりと形がまとい始める。
「先手、先手ね。良い響きだ。」
神は満足げに囁いた。
だがその満足は、短い。
システムはいつも予期せぬ入力を受ける。
バグは、意外な場所から生まれる。
神はそれを知りながら、キーを叩き続けた。
世界の歯車は――
また一つ、補われるか。
或いは、新たな亀裂を産むか。
どちらにせよ、動き出したのは確かだった。
第四章 完




