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3-4 殿下
森の出口に着くと、騎士団が集結していた。
鎧の列が光を反射し、冷たい鋼の壁のように道を塞いでいる。
「殿下! よくぞご無事で!」
少年――いや、殿下と呼ばれた彼を見て、兵たちは一斉に膝をついた。
(なるほど殿下と呼ばれるとなると王族か)
安堵と歓喜が混ざるその声の奥に、わずかな緊張が走る。
彼らの視線が次に向いたのは――俺だった。
鋭い金属音。
剣の柄に手がかかる。
殿下は慌てて叫んだ。
「違う! この者が私を助けてくれたのだ! 粗末に扱うでない!」
俺は肩を竦め、何も言わなかった。
怒気が薄れ、沈黙が降りる。
その中から、一層体格が良い一人の騎士が進み出た。
鎧の模様・装飾の簡素さ、しかし一目で分かる高貴な輝き――階級は高い。おそらく王直属の近衛。
「殿下を救ってくださり感謝いたします。
ただ、恩人をそのまま帰すわけにはいきません。
どうか王都までご同行を――」
要請の形をした命令。
拒めば、また剣が抜かれるだけだ。
「……わかった。」
俺は軽く頷き、そのまま馬車に乗せられた。
森の緑が遠ざかる。
あの静けさはもう届かない。




