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歯車の反撃  作者: クローン6号
第三章
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3-3 森への来訪者

我が家は、森の奥深くにある。

沈黙の森の中でも最も魔素の濃い場所――精霊理の揺らぎが最も穏やかな“静域”だ。


外界との境には、いくつもの防御結界を張り巡らせてある。

悪意ある者、あるいは神の加護を受けた者は通れない。

百年の間、誰一人として踏み入れた者はいなかった。


……あの夜までは。


夜気を裂くように、結界が軋んだ。

外で魔獣が唸り声を上げている。

その足元――光の外に、ひとりの少年が倒れていた。


結界の内側だ。

本来なら弾かれるはずの場所に。

つまり、あの子は“拒まれなかった”ということだ。


年は十ほど。

衣服は上質で、装飾にも金糸が使われている。

貴族、いや王族の血筋かもしれない。


だが――その肌の奥に、微かに覚えのある波長を感じた。

古く、そして忌まわしい、あの“呼び声”に似た脈動。

……勇者因子。

まだ芽吹く前の、欠片のような輝きが、かすかに少年の魂で震えていた。


俺は短く息を吐き、魔獣を屠った。

そのまま少年を抱え、家の中に運び入れる。


やがて彼は目を覚まし、怯えた声で叫んだ。


「ここは……!? 皆はどこだ!?」


「俺の家だ。お前は一人で倒れていたから助けただけだ。」


彼は涙を浮かべながら言った。


「兄上が……大怪我を……。森の賢者が“奇跡の薬”を作ると聞いて……。

でも小屋には誰もおらず……私が……無理を……」


沈黙の森に、遠い声だけが残る。


俺は棚からポーションを取り出し、手渡した。


「これを持って行け。森の入り口まで送ってやる。だが二度と森には入るな。」


少年は唇を噛み、俺を見上げた。

その瞳には、愚かだがまっすぐな光があった。

まるで、昔の俺を見ているようで――ほんの少しだけ、胸の奥が痛んだ。

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