1-2 回想1
四魔将はすでに斃された。
それでも、漆黒の玉座に腰掛けた魔王は微動だにしない。
その双眸はどこまでも冷たく、まるで全てを見透かすように俺たちを見下ろしていた。
ふと俺の胸を、奇妙な懐かしさがよぎる。
――あぁ、ここまで来たのか。
――五年前の記憶
ただ魔力が多いだけの農民だった俺を、教会の聖騎士たちが「特別な力を秘めている」と言って連れ去ったのは、もう五年前のことだ。
魔力を多く持った俺が生まれた時は両親も村人も喜んだ。
だが俺は、魔法を一度も発動できず、持て余す魔力のせいで体を壊してばかり。
あまり感情を露わにすることがない俺に対し、いつしか皆の期待は嘲りへと変わっていった。
十二歳になった年、教会へ引き取られる時に置かれた金貨が、俺にできた唯一の親孝行だったのかもしれない。
教会では、同年代の子供たちが剣と魔術の訓練に励んでいた。
だが俺は、剣術も魔法も人並みにも及ばず、ただの落ちこぼれと見なされるようになった。
――そして十五の年。
神殿で行われた「運命の鑑定」の儀。
俺が触れた水晶が、突如として眩く光を放った。
「まさか……よりによって、お前が“勇者”とはな」
(この者では寄付が集らぬではないか)
神官長様のその言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
初めて、自分が人の役に立てるかもしれないと――
胸が熱くなり、本当に嬉しかった。




