2-5 草原
風が穏やかに吹いていた。
空は高く、草は波のようにうねり、地平の向こうまで金緑の海が続いている。
俺は今、草原に立っている。
別に迷っているわけではない。
ただ――途方に暮れているだけだ。
旅の目的はまだ果たされていない。
俺は精霊を探しながら、同時に“安息の地”を探すことにした。
戦も、神託も、血の匂いもせず、誰にも邪魔されない場所を。
そのうちのひとつ、土の精霊はどこにでもいるだろうと思っていた。
だが、現実は違った。
目に見えず、声もなく、気配すらも残さない。
地に還る存在は、誰の前にも容易に姿を現さないようだ。
焦る必要はない。
時間ならある。
そう自分に言い聞かせながら、俺は緩やかな丘を越えた。
やがて、草が途切れた一角に辿り着く。
陽に晒された地面がむき出しになっており、そこだけが妙に痛々しい。
俺は膝をつき、土に手を当て慎重に魔力を流してみる。
――温もりがない。
まるで命の流れが止まってしまったかのように、見放されたように冷たい。
しかし、しばらく目を閉じていると、
その奥からわずかな震えと、ぼんやりとした黄色い光が見えた。
「……いたのか。」
光はかすかに揺らめき、砂粒のように脆い。
このまま放っておけば、風に散ってしまいそうだった。
俺は両手でその土をすくい上げた。
乾いた感触。
指の隙間からこぼれ落ちるたび、光が淡く脈打つ。
次の瞬間、土の中の光が生き物のように蠢き、まるで俺の顔色を伺うような動作で腕輪へと吸い込まれていった。
腕輪の魔石がゆっくりと黄色に染まる。
その輝きは派手ではない。
ただ、温かく、どこか懐かしい。
地の底から、低く響くような安堵の気配が伝わってくる。
俺は静かに立ち上がり、周囲を見渡した。
草原の波が再び風に揺れ、先ほどよりも鮮やかに光って見える。
そして、また歩き始めた。




