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歯車の反撃  作者: クローン6号
第二章
15/31

2-5 草原

風が穏やかに吹いていた。

空は高く、草は波のようにうねり、地平の向こうまで金緑の海が続いている。


俺は今、草原に立っている。

別に迷っているわけではない。

ただ――途方に暮れているだけだ。


旅の目的はまだ果たされていない。

俺は精霊を探しながら、同時に“安息の地”を探すことにした。

戦も、神託も、血の匂いもせず、誰にも邪魔されない場所を。


そのうちのひとつ、土の精霊はどこにでもいるだろうと思っていた。

だが、現実は違った。

目に見えず、声もなく、気配すらも残さない。

地に還る存在は、誰の前にも容易に姿を現さないようだ。


焦る必要はない。

時間ならある。

そう自分に言い聞かせながら、俺は緩やかな丘を越えた。


やがて、草が途切れた一角に辿り着く。

陽に晒された地面がむき出しになっており、そこだけが妙に痛々しい。

俺は膝をつき、土に手を当て慎重に魔力を流してみる。


――温もりがない。

まるで命の流れが止まってしまったかのように、見放されたように冷たい。

しかし、しばらく目を閉じていると、

その奥からわずかな震えと、ぼんやりとした黄色い光が見えた。


「……いたのか。」


光はかすかに揺らめき、砂粒のように脆い。

このまま放っておけば、風に散ってしまいそうだった。


俺は両手でその土をすくい上げた。

乾いた感触。

指の隙間からこぼれ落ちるたび、光が淡く脈打つ。

次の瞬間、土の中の光が生き物のように蠢き、まるで俺の顔色を伺うような動作で腕輪へと吸い込まれていった。


腕輪の魔石がゆっくりと黄色に染まる。

その輝きは派手ではない。

ただ、温かく、どこか懐かしい。

地の底から、低く響くような安堵の気配が伝わってくる。


俺は静かに立ち上がり、周囲を見渡した。

草原の波が再び風に揺れ、先ほどよりも鮮やかに光って見える。

そして、また歩き始めた。

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