2-3 火山
俺は旅の途中、水の妖精を見つけた。
それをきっかけに、魔王の言葉を思い出し魔力の安定を優先させることにした。
どうせ当ての無い旅なら目標があった方かいい。
その黒々とした岩山に近づくにつれ、森は徐々にその息を絶たれた。
緑は痩せ、木々はねじれたまま朽ち、やがて灰と化していく。
代わりに現れたのは、鋭く裂けた岩の群れ。
地の痛みがそのまま地表に噴き出したような、荒涼たる景色だった。
歩を進めるたび、足裏にじんわりと熱が伝わる。
大地の鼓動が、静かに俺の体温を奪っていく。
――ここは、火山地帯だ。
水の精霊は俺の魔力を吸収して少し元気になったようだが、流石にこの環境は辛いようだ。それでも水の精霊は俺を守ろうとするかのように「水の膜」を与えてくれた。
その加護は今も、肌を湿らせるように身体を包んでいる。
……だが、ここではそれが裏目に出た。
水気が熱を孕み、空気は蒸し、呼吸すら重くなる。
それでも俺は、精霊の好意だと思って耐えるしかなかった。
ふと、陽炎の中に揺らめく光が見えた。
いる――。
火の魔力。
それも、限界まで衰えた微かな残滓。
岩の隙間で、今にも消えようとしている。
俺はそっと手を伸ばす。
その赤い光は燃え尽きる寸前の燠火のように震え、やがて掌に降りてきた。
「……やっぱり、俺にはこれだな」
熱はなく、むしろ少しだけ温かかった。
次の瞬間、光はまるで安堵するように腕輪へと吸い込まれ、消える。
残されたのは、鈍く燻る赤い魔石。
それは、まるで長い眠りの中で夢を見るように、微かに脈動していた。




