1-10 魔族の支配
こうして四つの人の器は、四つの災厄へと変わり果てた。
かつて神託によって選ばれし勇者の仲間たちは、今や人類に仇なす魔王の代行者。
魔族の嘶きが夜空を裂き、
その声は“始まりの鐘”のように世界へ鳴り響いた。
四魔将、誕生。
勇者が不在の今では魔王にとって人類は単なる駒。生かすか殺すかは管理の問題でしかない。
こうして、人類の未来の一端が決定された。
殲滅ではなく管理。魔族による恐怖と懐柔の支配の始まりだ。
人の時代は、静かに終わりを告げた。
抵抗は空しく、人類は屈した。王はそのまま象徴として残され、統治機構は局所的に温存された。
四魔将は命じられた通り殲滅を行わず、人の統治に都合のよい体制を保存した。恐怖はあれど、完全な暴力支配ではない。
民衆にとっては、真の支配者が変わっただけ。生活は大きくは変わらず、むしろ搾取が緩んだ地域もあり、歓迎すらあった。
しかしそれは表面の安定であり、深く根付いた屈服の始まりに過ぎない。ぬるま湯の中で、抵抗の火は徐々に弱まっていき神への信仰も揺らいでいく。
俺は遠くからその様を見下ろす。憤怒も同情も、既に枯れていた。
世界は動いた。歯車は回り続ける。だが、その一つを外した者がいる。
それが何を意味するのか、まだ誰も知らない――いや、知っている者が一人いるだけだ。
第一章 完




