第八話 終わり
「ジョン!! 今直ぐに逃げるぞ!!」
パーティー会場の扉が激しい音と共に、開いた。俺の仲間たちにしては乱暴である。それ以外であると考えると考えられるのは一人だろう。扉の方を見れば、ジョンの父親であるベンガー伯爵が肥えた体を揺らしながら近寄ってくる。
彼の狙いがセリーヌではないことは予想しているが念の為、彼女を見えないように立ち位置を変えた。
「な……父上!? 何を……」
「何をへたり込んでいる! 逃げるのだ!!」
ベンガー伯爵は床に座り込んでいるジョンの腕を掴む。そして逃げると口にした。
「に、逃げる!?」
ジョンは父親の発言に顔を青ざめた。
「そうだ!! カミュエル公爵の犬共が屋敷に乗り込んできたぞ!! 我々はここで終わる訳にはいかないのだ!! 逃げるぞ!」
「しかし……父上……」
視線をイグニ向けると静かに頷く。如何やら、合図を待っていた騎士団たちが突入したようだ。
「全く、何処から嗅ぎつけてきたのか!! あの堅物宰相め! 本当にカミュエル公爵家は忌々しいことこの上ない!! あいつらさえ居なければ、もっと俺たちの商売が上手くいくのに!!」
「父上……それ以上は……」
ベンガー伯爵は俺の父である、カミュエル公爵を堅物宰相だと思っているようだ。俺としては硬派であるが、国民を思い政策を執り行っていると思う。他の貴族や高官たちからも慕われている。現にこのベンガー伯爵家に乗り込んで来ている騎士団は、カミュエル公爵家の騎士団ではない。王都において正式な捜査である為、王国騎士団である。俺が今回のセリーヌが断罪される件と、ベンガー伯爵の異様な資産について父親に相談した。
するとイグニを護衛として付けることが条件で、学院の潜入とパーティーの参加が許可されたのだ。その会話を父の幼馴染みである騎士団長が聞いていた為、王国騎士団の出動はスムーズであった。そして何故か騎士団長までもが、ベンガー伯爵一派を捕らえる為に此処に突入している。遠くから聞こえる破壊音は、騎士団長のものだろう。
「ジョンは何も心配するな! 国外逃亡をして2・3年して帰ってくれば良い。爵位だって買えばいいのだ! 国外に逃げれば、あの堅物宰相も追ってはこない筈だ! 何も心配することはない! さあ! 行くぞ!!」
「だ……駄目です……逃げきれません……」
身を隠すなら国外逃亡を謀るのが最適だろう。しかしそれは、追手を逃げ切ることができたらの話である。国外逃亡を口にするベンガー伯爵だが、息子のジョンは震えながらその計画を否定した。
「何を言っている!! 俺の計画ならば大丈夫だ! 早くしないとカミュエル公爵の犬共が来てしまう! 急げ!!」
「だから……もう、駄目なのですよ……父上……」
強引にジョンを立たせようと、ベンガー伯爵が引っ張るがジョンは立ち上がらない。その代わりに、絶望した表情で父親に告げる。俺としてはこの親子に逃げてもらっても構わない。優秀な騎士団に強烈な攻撃を受け捕まり、余罪が一つ増えるだけである。
「ジョン? 何を言って……」
「……い、いらっしゃる……のです……」
流石に息子の様子がおかしいことに気が付いたベンガー伯爵が、首を傾げた。
「? 誰が居ると?」
「……っ……」
ベンガー伯爵の質問に、ジョンは俯き口を閉ざす。
「初めまして、ベンガー伯爵。私、カミュエル公爵家嫡男。ルージオ・カミュエルと申します」
「……っは、は?……」
俺はベンガー伯爵の背後から声を掛ける。すると、ベンガー伯爵は緩慢な動きで振り返った。そして俺の姿を目にすると、目を見開いた。
「嗚呼、こう言った方が分かり易いですか? 『あの堅物宰相』の息子です」
変装を解いているが、ベンガー伯爵の反応が薄い。そこで俺は分かり易く名乗る。
「ひっ! なっ……何故……この様な所に!?」
ベンガー伯爵は後退しようとして転ぶ。そして床に倒れながら疑問を口にした。
「『何故』? 勿論、貴方方全員を捕えに来たのですよ」
これで終わりだ。俺が告げると、騎士団が突入してきた。
「セリーヌ嬢。こちらに」
「……っ! はい……」
パーティー会場が混乱に満ちる前に、俺はセリーヌを外へと連れ出した。




