第六話 正体
「坊ちゃまに、無礼な振る舞いは許しません」
俺の前に黒い影が現れると、襲い掛かってきたビリーとアンドレを蹴り飛ばした。
「ぎゃっ!?」
「ぐふっ!?」
ビリーとアンドレは、カエルが潰れたような声を上げると床に転がった。何時見ても見事な蹴り技である。ビリーとアンドレが床とお友達になった為、パーティー会場は静まり返った。
「お怪我はありませんか? 坊ちゃま」
「嗚呼、助かったよ。イグニ。だが今は……」
執事であるイグニが、俺の方へと向き直る。彼は先程、俺がケーキを食べようとしたら睨んできた執事だ。何故、ベンガー伯爵家に居る執事が俺を守るのか、何故俺が彼の名前を知っているのかと言えばそれは単純である。イグニは俺の味方だ。
「おい! 貴様っ! 俺の家の使用人だろ!? 何をしている!? さっさと、裏切り者のカールソンを捕まえろ!!」
ジョンは不測の事態に驚きつつも、怒声を上げる。
「残念ながら、私の主は貴方ではありません」
「は!? な、何を言って……」
イグニは冷たい声で、このベンガー伯爵家の執事であることを否定した。そのことに、驚愕するジョン。自分の屋敷の使用人たちの顔を覚えていないのだろうか。全くもって、危機管理がなっていない。己を害する者が存在しないと、思い込んでいるから寝首を搔かれるのだ。
「イグニ。その位にしておきなさい」
「はい、坊ちゃま」
放置していると、イグニがジョンを制圧しそうだ。まだ、ジョンには話しがある。俺はイグニを制止した。
「何故だ!? 俺の家でない使用人が紛れている!? カールソン! 貴様の指示か! 伯爵令息であるこの俺に断りもなく勝手なことをしたな!!」
激怒しながら、ジョンはイグニの存在に憤りを現した。ジョンが怒るのも無理はない。完全にこの場はジョンが絶対的な支配者だった。だが俺の裏切りと、イグニの乱入により場が揺れたのだ。
少なくともこの場には、セリーヌの味方が二人居ることになる。それは大変都合が悪い。ベンガー伯爵家の力使い俺とイグニを消しにかかるだろう。
「『勝手なこと』? それは貴方の方ですよ。そして裁かれるのは貴方方です」
俺は自分の頭を掴むと、変装用のカツラを取る。そして分厚い眼鏡を外した。
「……っ!? その髪と瞳の色は……」
本来の俺の姿を見ると、ジョンは目を見開いた。先程までは、ごく一般的な茶色の髪と瞳だったが、今の俺の髪は漆黒に瞳は緋色である。この髪の毛と瞳は珍しい。そしてこの容姿をしているのは、ある貴族だけである。
「初めまして、そして貴方方を捕えにきました。カミュエル公爵家嫡男。ルージオ・カミュエルと申します」
俺は優雅に一礼した。




