第五話 裏切り③
「カールソン! 貴様っ! この俺に歯向かうのか!?」
眉間に皺を寄せたジョンが俺を指差す。何とも不作法である。それを指摘する人物は居ない。この場は、ジョンとルルナによって作られている。正常な判断をできるもは居ないのだ。
「歯向かう? いいえそんなつもりは毛頭ありません」
俺はジョンの言葉に首を横に振った。
「だったら……大人しく証言をすればいいのだ! 平穏な一年を過ごし卒業したいだろう!?」
「もしかして、ジョン様は私に噓を吐けと? 虚偽の証言をしろと? そしてセリーヌ様を貶める手伝いをしろと仰るのですか?」
脅しをかけてくるジョンだが、それはいつも通りである。俺はジョンに協力を強制する内容に関して質問を重ねた。
「ちっ! 五月蠅い奴だな! 噓ではない! ビリーとアンドレは目撃をしている! セリーヌは悪人だ!! 証言をする気が無いなら、黙っていろ!!」
「それはできませんよ」
ジョンはビリーとアンドレの証言があると主張するが、それで引き下がる俺ではない。
「何を……」
「ビリーもアンドレも、セリーヌ様の悪行など目撃していません。虚偽の証言でセリーヌ様を貶めることは許しません」
この誕生会は仕組まれたものだ。だが、此処でセリーヌが断罪されれば汚名返上するのは難しくなる。この会場に居る者たちが噂を流すからだ。そしてそれはセリーヌの家である、ドレン子爵家の存在を脅かすことになる。
「『許さない』だと? 何様のつもりだ!? 俺はジョン・ベンガー伯爵令息だぞ!? 俺が父上に頼めば、カールソン男爵家など潰すのは簡単だ!!」
俺の言葉を鼻で笑うと、ジョンはカールソン男爵家を脅す理由に加えた。
「カールソン様……。私は大丈夫ですから……」
ジョンの言葉に、顔を青ざめたセリーヌが俺の心配をする。何が大丈夫なものか、顔色が悪いことに加えて震えているのだ。突然の婚約破棄に断罪をされそうになれば、精神的負担は大きいだろう。
「いいえ、セリーヌ様。正しい方が屈することはありません。私は貴女を信じています」
俺はスーツの上着を脱ぐと、震える彼女の肩にかける。そして安心させる為に、優しく味方であること告げた。
「……っ!? カールソン様……ありがとうございます」
セリーヌは俺の言葉に安堵の笑みを浮かべた。
「ジョン様! 被害者は私なのですよ!? なんで、カールソンはあの女を庇うの!? 頭おかしいわ! 分かった! 二人は共謀して私を虐めていたのよ!」
今まで黙っていたルルナが、甲高い声で世迷い言を口にした。その表情は醜く歪んでいる。せめてこの場が、学院ならばルルナの発言から不信感を抱く者が現れるだろう。加えて本当にルルナが虐められていたならば、この様な発言はできない筈だ。
だがこの場は、ジョンとルルナの悪意に従う者ばかりである。発言の正しさは大切ではない。ジョンとルルナの発言こそが、正義なのだ。
「そうだな! それなら納得だ! おい! お前たち、その不届き者共を捕えろ!!」
ジョンはルルナの提案に頷くと、ビリーとアンドレに命令を出す。
「セリーヌ様、後ろに」
「……っ。はい……」
物騒な命令に俺は、背中にセリーヌを庇う。
「はい! ジョン様! 覚悟しろ! カールソン!!」
「ジョン様の言うことを聞かないお前が悪いのだからな!!」
ビリーとアンドレは、俺に向かって飛び掛かってきた。




