第二話 断罪②
「……なっ、何故ですか!?」
ジョンに対峙する女性が、悲痛な声で婚約破棄の理由を尋ねる。その声の主は、セリーヌ・ドレン子爵令嬢だ。彼女はジョンの婚約者である。理由を訊くのを当然のことだ。
通常、貴族同士の婚約破棄となると繊細な配慮が必要とされる。婚約破棄をされた相手側に問題があるとなれば、家名が傷付くのだ。信頼性が揺らげば、取引や交渉での立場を無くす。その配慮も忘れ、学院の生徒と集めた場で婚約破棄をするなど正気を疑う。
これではセリーヌが晒し者となるのは必至である。我々は現在二年生であり、卒業迄あと一年間あるのだ。その期間、セリーヌがこの後好奇の目に晒されるのは想像に難くない。
いや、そのことを含めてこの『イベント』を起こしたのだろう。
何せセリーヌは、この乙女ゲームにおいて悪役令嬢の役だ。彼女はこの場で断罪される。
「お前は成績を首席であると噓を吐いたな! その実は、教員から事前に試験用紙を買収していたのだ! それなのに! 自身が優秀だと周囲を欺き! 俺を馬鹿にした!」
「……っ!? そ、そんなことは致しておりません! 身に覚えのないことです!」
ジョンはセリーヌとの婚約破棄の理由を告げる。
その内容は何とも、お粗末なものだ。彼女は真面目であり誠実である。教員を買収し試験用紙を手に入れることなどしない。その様な愚策を講じずともセリーヌが優秀な人材であるのは、まごうことなき事実である。
彼女は学院創設以来の秀才だ。入学試験では全科目満点を取り、この二年間の成績は常に首席である。それらは元からの頭の良さに加えて、セリーヌ自身の努力により実現していることだ。
彼女の努力を否定する発言に嫌悪感を覚える。
「黙れ! そこまでして、首席という成績を手に入れたかったのか!? 卑しい女だ! 金遣いが荒く、贅沢三昧の浪費家という噂は本当だったようだな! この悪女が!!」
「……っ! 違います! 私は本当に、その様なことは致しておりません! それには、私は贅沢など……」
セリーヌの悲痛な弁解が響くが、ジョンの怒声に搔き消される。ジョンはセリーヌのことを浪費家と称するが、それは間違いだ。
ドレン子爵家は知識人を多く輩出している家柄である。衣食住は質素な物を好み、知識を得る本や人材の為に資金を使っているのだ。『金遣いが荒く、贅沢三昧の浪費家』というのは、全くの噓である。
「言い訳は無用だ! 更には、俺の大切なルルナに危害を加えていたらしいな!? 俺が彼女を大切にしたから、嫉妬したのだろう!? 卑しい上に心の狭い女だ!!」
「……っ!? 何のことですか? 私には身に覚えのないことです!」
セリーヌの発言を一蹴すると、自身が肩を抱いている女性へと話題を変えた。彼女は、ルルナ・ドロン男爵令嬢である。この乙女ゲームの世界においてのヒロインだ。
ルルナはジョンに寄り添い、勝ち誇った笑みを浮かべる。如何やら彼女はジョンと結ばれる伯爵エンドを選んだようだ。露出度の高いドレスを身に纏っているのが、何よりの証拠である。
ヒロインであるルルナが、どのルートを選択してもこの断罪『イベント』は発生する。悪役令嬢であるセリーヌが断罪するのは、ヒロインが幸せになるには必要なことなのだ。




