第一話 断罪①
「むぐっ……もぐっ……」
煌びやかな装飾が施された伯爵邸。その大広間では優雅な誕生会が開かれている。このベンガー伯爵令息の誕生会なのだ。俺はその一角で、口を懸命に動かす。贅を凝らした料理はどれも美味しい。普段、口にしている料理との違いを楽しむ。
「おい、カールソン。そろそろ集まれ」
「ん? 嗚呼、はい……」
一人食事を楽しんでいると、学院の同級生のビリーに声をかけられた。無視をしても良いが、今の俺では反抗するのは得策ではない。最後に小さなケーキを取ろうすれば、付近に控えていた執事に睨まれる。名残惜しい気持ちを抱えながら軽食コーナーを後にした。
「全く……これからのことがあるというのに……。よく食事が出来るな……」
「腹が減っては戦は出来ませんから」
歩きながら、俺の行動に溜息を吐くビリー。そのことに俺は小さな声で答える。この後に、ある『イベント』が起こるのだ。俺はそれに参加する。その『イベント』に参加する為に、今日このベンガー伯爵邸を訪れたと言っても過言ではない。
「……役割を果たす迄、大人しくしていろ」
「はい」
ビリーは俺の返事を聞くと、釘を刺す。それに対して、俺は大人しく頷いた。この後の『イベント』では、関係者たちの人生に大きく影響することが起こる。それ故に俺の緊張感の無い行動が、理解できないのだろう。
だが、俺も緊張をしていない訳ではない。言葉通り、『イベント』という戦に備えての行動である。その『イベント』において、俺には大切な役割があるのだ。少し乱れた髪と、分厚い眼鏡を押し上げた。
俺には前世の記憶がある。
普通の会社員として、仕事終わりに電車でうたた寝をした。するとこの世界に転生していた。この世界は前世の乙女ゲームである。俺は実際にプレイをしたことはない。後輩が嵌っていると紹介されただけだ。だが俺はある人物のファンである。その為、今日は『イベント』に参加することにした。
現在の俺の名前は、エディ・カールソン男爵令息だ。男爵家は爵位では一番下位である為、学院では存在価値は有って無い様なものである。要は下僕だ。今日の誕生会では、ある『イベント』が行われる予定だ。その成功させる為に、ベンガー伯爵令息より下位の者たちが集められている。
この状況は俺にとって好都合だ。
「連れて来たぞ」
「嗚呼、手筈通りにしろよ」
「……はぁ」
ビリーの背中を追うと、大広間の中央に近い場所に辿り着く。そこには同じく同級生であるアンドレが待っていた。彼は俺を一瞥すると、短く指示を出す。これから行われる『イベント』への指示だが、俺としては気が乗らない。しかし何も言わないと角が立つ、取り敢えず曖昧な返事だけを返す。
「セリーヌ・ドレン子爵令嬢! 俺はお前との婚約破棄を此処に宣言する!!」
大広間の中心で一人の男が大声を上げた。ベンガー伯爵家の一人息子であり、今日の誕生会の主役であるジョン・ベンガー伯爵令息である。本日の主役ということもあり、彼の装いは派手だ。そして傍らには、露出度の高いドレスを身に纏った女性の肩を抱いている。
「始まりましたね」
乙女ゲームの原作通り、断罪『イベント』が開始された。




