地球へ
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大型宇宙船ラドムは、アルファと異星の女性を収容し、減速すると、目的地を地球へ定めた。アルファが女性に尋ねた。
「あなたの名前をまだ訊いてなかった」
「ローナです」
ラドムはアルファとローナに言った。
「地球へ向かうのはいいとして、わずかな生存者しか収容できない。生存者が居たとしての話だが」
アルファが応えた。
「わかっています」
ラドムが説明した。
「通常の速力では、地球までは何年もかかる。ここからは空間を飛び越える跳躍航法で地球に向かう」
ローナはラドムの指示で船の操縦室へ移った。格納エリアに固定されたアルファはラドムの観測機能にリンクされ、データを共有した。
船は、宇宙空間の物理的距離を跳躍し、星の光のにじむ視界の流れのあと、地球から50万キロ離れた空間に船体を現した。
操縦室の窓からは地球が遠望できた。
「これが第3惑星……」
ローナが観測窓の視界に呟いた。
そのとき、船が通信を受信した。アルファが応答した。
「こちらは土星探査機アルファです。そちらの所属を明らかにしてください」
「こちらは地球統合政府、臨時代表部の脱出船です。私は、地球上空400キロの周回軌道上の宇宙船オライオンの船長ギャレット」
ラドムの遠距離解析装置が相手の宇宙船の画像をとらえた。大気圏滑空用の翼を備えた宇宙船だった。
アルファが訊いた。
「そちらの被害は?」
「この船の乗員26名は全員健康です」
ギャレット船長は話した。核爆発は予兆もなく、突然起こった、機器の故障による偶発的な可能性が高く、被害は北半球に集中している、着弾した箇所はICBMの発射基地、通信施設、空軍基地に集中していた、地下発射サイロが被弾した時点で、相手国に対する報復攻撃が自動的に行われ、いくつかの都市が壊滅的な被害をうけて、大国同士の停戦が成立した、とギャレット船長は説明した。かねてから対立していた大国は政府の中枢機能が倒壊し、その他の国も降灰した放射性のちりの為に深刻な被害をうけて、国家の機能が喪失してしまった。
中立国を中心に地球統合政府が成立し、地下の核シェルターへの機能の移転がおこなわれている………。
アルファが提案した。
「ギャレット船長、そちらの全員をこちらの船に収容します。あなたがこの船の船長を努めてください」
ラドムが言った。
「確かに、この船のほうが収容能力はある」
ギャレット船長の声が聞こえた。
「私が船長をしたとしても、行くあてがない」
アルファが応えた。
「いいえ、どんな時にも希望はあります」
そして、アルファは続けた。
「ローナ、あなたの故郷の星は地球の人々を受け入れてくれますか」
ローナが笑った。
「喜んで」
それからしばらくして、ラドムの船は脱出船オライオンと接合し、搭乗員たちは乗り移った。地球から脱出してきた宇宙船は他に何機かあり、ラドムの船の船長となったギャレットは手際よく、それらの船の人々を収容した。地下に生き残った人々を救出するにはまだしばらくの時間がかかるだろう、とギャレットは思った。
アルファとラドムの協力を得て、地球と、その新しい星との間を何度も往復することになるだろう。たとえ時間がかかったとしても、この工程はやりがいのある仕事になるのに違いない。
「ギャレット」
操縦室でギャレットか振り向くと、ローナが親しみの笑顔を見せていた。
これからは異国の言葉を覚える勉強も必要だと思った。
船は新しい旅路へと進んで行った。
《了》
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