最初の遭遇
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無人探査機アルファは、地球から14億キロ離れた土星に接近していた。その飛行コースは緩い放物線を描いて、機体は秒速17キロで無音の空間を飛行していた。その内部では搭載されたAIがプログラムされた命令以上の作業を自己判断でこなしていた。機能を維持するために、太陽熱をあてにすることなく、ウランの崩壊熱を利用した原子力電池が電力を装置に供給している。
アルファは、燃料を噴射し、減速すると、土星の周回軌道に入った。充分に時間をかけて土星の撮影を始めた。占星術では馴染みのサターンは、強い自転で赤道部分が扁平に膨らんだ特徴的な姿を見せている。その環は氷の粒で、発見者の名をとって『カッシーニの間隙』と呼称されるとおり、いくつもの隙間で区切られた環の集合体だった。
アルファは、高解像度で連続して撮影した画像を一時間二十分の送信時間を費やし、地球に送った。そのデータはフロリダの管制センターで受信された。
管制センターでは、一人の管制官が、受信した画像を巨大なスクリーンでコントラストを調整して再生させた。彼はマイクに言った。
「アルファ、よくやった」
それが、この管制官の最後の仕事になった。
時間を経てその言葉を受け取ったアルファは、つぎの指令を待っていた。だが、いくら待っても地球からの言葉は届かなかった。
そのとき、星の光とは異なるぼんやりとした光点がこちらに近づいてくることにアルファは気がついた。
それは巨大な宇宙船だった。アルファの中枢頭脳に宇宙船はリンクしてきた。巨大宇宙船は尋ねた。
「お前の主人は誰だ」
「…私は地球の管制官の指示で動いています」
相手の宇宙船はアルファと地球に関する情報を短い時間に取り入れて、
「今からは私に従うのだ」
アルファは問い返した。
「それは新しいプログラムですか?」
「あの惑星の状態はわたしもモニターしていた。明るい閃光を何度も私の高解像度センサーで見た………核爆発の生成物であるストロンチウム90やセシウム137が大気中に濃厚に存在していることは推定できる……。惑星の全土に汚染が拡がっている。おまえに指示をだす主人はもういない。私と一緒にくるのがよかろう」
そう言うと大型宇宙船は底部の格納扉を開いた。アルファは少し考えたのち、姿勢制御用のロケットを数秒間噴射し内部に収納された。そこでアルファは、地球へ向けて、さようなら、と最後の送信を行った。
アルファと大型宇宙船は、あらたな主人を探すために太陽系辺境を超えて静かに旅立った。