9.ディオンの過去
「ここか」
魔女協会が暴れまわっているとの情報があった階層に辿り着いた。
やはり、俺たちの拠点がある層からそう遠くない。
『魔女様に反抗する者は皆殺しだぁっ!!!』
少し離れた場所からそう叫ぶ声が聞こえてきた。
魔女協会の者だろう。そうでなければただの狂人。
「耳障りな声がしますわ」
ディオンがボソッと呟いた。
その声にはわずかに憎しみが混じっているように感じた。
「邪魔者は排除しなくてはな」
ポンポンとディオンの頭に触れてそう言った。
「そ、そうですわね」
「みんなで魔女協会の連中を排除しよう」
「っ……!」
♢
(ミデン様は何でもお見通しのようですわ)
ミデンの言葉を聞いたディオンはそう感じた。
ただ魔女協会の連中を排除しようとは言わずに、みんなで排除しようと言った。恐らくミデンはディオンが一人で突っ込んでいきそうだと直感的に感じたのだろう。
実際、ディオンはミデンが『みんなで』と強調して言わなければ、周りとの連携をろくに考えもせずに突っ込んでいた。
(ミデン様に迷惑をかけちゃいけませんわ。落ち着かないと)
ディオンは主であるミデンの横顔を見ながら1度、深呼吸をして心を落ち着かせた。
「ミデン様は何でもお分かりになるのですね」
「なんとなくさ」
(きっとミデン様には勘づかれている)
ディオンには他のメンバーにすら話していないことがあった。
それが、ディオンが魔女協会を憎む理由についてだ。
その理由どころか魔女協会に憎しみを抱いている事すらミデン以外には気づかれていないだろう。
(今の私には仲間がいますわ)
口調から分かるかもしれないが、ディオンはお嬢様だ。
メンバーの中にはおかしいと思っていた者もいたかもしれない。お嬢様なのに他のメンバーのようにこの拠点で暮らしていて良いのか、と。
お嬢様の家出だとかなりの大騒ぎになるのではないかと。
だが、実際には全くそんな騒ぎは起きなかった。
その理由に彼女の過去が関わっている。
今のディオンに家族はいない。
両親は魔女協会によって殺されたから。
――あれは1年半ほど前だった。
ディオンは自室で1人、テレビ番組を観ていた。何もすることが無いから観ていただけ。
ディオンの一家は、『フェスティーバ』という日本から少し離れた場所に位置する国の貴族だった。
そのため、基本的には住み込みのメイドの女性に育てられたようなもので、あまり両親に構ってもらえたことは無かった。
(今思えば、構ってもらえないストレスが溜まって、あんなことを言ってしまったのかもしれないですわね)
その日、ディオンは珍しく両親に我儘を言った。
「一緒に街に行きたい!」と頼み込んだのだ。彼女の両親は数時間だけでもいいのならという条件付きではあるが快く了承してくれた。
だが、その僅か1時間後のことだった。
ディオンは自分が言ってしまった我儘を後悔した。
最初は何の問題もなかったのだ。
久々の街。多くの人たちがディオンたちに声を掛けたりしてくれた。
ディオンの一家はこの国の貴族だからこの国の民なら知らぬものはいない。
街の人たちに勧められた店などを数か所訪れた後に、昼食をとるためにレストランへと向かっている最中だった。
街中に声が響き渡る。
「我々は魔女協会である。魔力量の多い者を排除させてもらう。これは魔女様の命令であるため、反抗は許さぬ!」
突如現れた自らを『魔女協会』と名乗る集団によって街中はパニックに陥った。
そんな街の人たちを奴らは次々と殺めていき、街は次第に血で赤く染まっていった。
「お母さま! お父さま! どうしようどうしよう!!!」
ディオンも他の人たちと同様にパニック状態に陥り、逃げ惑っていた。
だが、どこにも逃げ場はなかった。この街は奴らに包囲されていた。
そのため、ディオンたちの無謀な逃げも長くは続かなかった。
「ほほう。中々の魔力量だなぁ」
「ひぃ……っ」
魔女協会のメンバーの男がディオンたちの前に立ちふさがった。
「危険分子は排除しなくちゃなぁ」
そう言い、その男は腰に携えていた短剣を抜いた。
「「逃げなさい!!!」」
ディオンの父と母、そして一緒に連れてきていた護衛たちがディオンの前に立ち、ディオンを守ろうとしてくれた。
「でも……」
ディオンは泣きながらその場で震えていた。
その間に、護衛が1人、2人、3人と斬り殺され、血飛沫をあげていく。
「「早く!!!」」
「うわぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
両親の鬼気迫る表情で叫ぶ声でようやくディオンは動き出した。
家族を見捨てなくてはならない自分の非力さと自分の我儘のせいでこうなってしまったという後悔を感じながらも走ってその場から逃げた。
ディオンが逃げ去った後、彼女の両親はあっけなく殺された。
彼女は知る由もないが、彼女の両親は殺される直前、「世界で1番愛してる」と笑顔で呟いていた。
両親のお陰で生き延び、その後は国を出て日本に辿り着き、今所属している組織に加わったのだ。




