2.なんでここに義妹がいるの?
(まったく去ろうとしないなこの人たち……)
横になっている俺の前で女の人たちが話し始めてから30分は経ったと思うが、一向にこの場を離れようとしない。
これは、俺が目を覚ますまで待つつもりなのだろうか。
こうなってしまえば眠ったふりをし続ける必要もないか。
俺は諦めて狸寝入りを辞め、起き上がる。
居ても3人くらいだと推測していたが、そこには俺が想像していた数よりも少しだけ多かった。しかも、俺と同じように全身黒の服装を纏っており、フードも深くかぶっており、顔はよく見えない。
もしや、この人たちも俺と同じく力ある中二病……なのか?
「お前たちは一体、何者だ?」
少し声を低くして言った。
その方がカッコいいし、雰囲気が出るというもの。
「申し遅れました。私たちは、このダンジョン内を主に拠点にしている表舞台には姿を出さずに裏の世界で行動している集団です」
「ほほう」
待って待って何それ! カッコいいんだけどぉ!!!
表舞台には姿を現さずに、裏の世界で暗躍している人たちってことだよね!
つまり、彼女たちは『陰の組織の者たち』というわけか。
自分たちが進む道以外には見向きもせずに突き進み、邪魔をするものは誰であろうと排除する、みたいな!
くぅ~っ!
俺の厨二心がくすぐられる!
だが、カッコよさで負けてはいられない。
「裏の世界……。光差す道ではなく、陰の道を進む者たちということだな」
「はっ! その通りでございます!」
彼女たちは一斉に片膝を地面につき、頭を下げる。
貴族国家の王にでもなった気分だ。
「そんなお前たちが俺に一体何の用だ?」
「私たちには、私たちを導く主がおりません。このままでは今は良くともいつしか必ず壁にぶち当たります」
「つまり、その主を俺にやってほしいと?」
「流石の理解力でございます。もちろん無理強いはしません」
なるほどな。
彼女たちの集団のリーダーを俺にやってほしいんだな。
……これ、断る理由ないよね?
裏の世界で暗躍する陰の組織。それを率いる最強の主。
おいおい、カッコよすぎるだろぉっ!
「よし、分かった。お前たちの主になってやろう」
「「「ホントですか!」」」
俺の返答を聞いた彼女たちはみんな大喜びではしゃいでいた。
そんなに嬉しかったのか。
あ、そうだ。この組織のメンバーは今いる人数ですべてなのだろうか。今俺の目の前にいるのは、1、2、3、4、5。5人だ。
裏の世界を暗躍する組織にしては人数が少ない気がする。まあ、少数精鋭という可能性もあり得るか。
とりあえず、彼女たちに聞いてみることにした。
彼女たちの主となったのだから組織のことは少しでも多く把握しておかないとね。
「お前たちに聞きたいのだが」
「はい、なんでしょう」
「この組織は今いる5人で全部か?」
「いえ、総勢で約50人程おります。本日は、その中でも精鋭の5人と言ったところです」
え、ご、50!?
この組織ってそんなにたくさんメンバーいるんだ。
まあ、組織だし当然、なのかな。
さすがに50人というのは予想以上だったが、ここで驚いた表情を見せては組織のトップとしての格が落ちてしまう。
敢えて表情を変えずに話すよう努めた。
「なるほど。お前たちのほかに40人以上がいるということだな」
「はい、そうです」
とりあえずこの組織の人数はある程度知ることが出来た。
あとは、彼女たちの顔を見せてほしいところではある。顔も知らないまま組織の主をするわけにもいかないし。
まあ、裏の世界で暗躍している組織だから顔を見えづらくしているのは分かるが、流石にメンバーの顔くらいは知っておきたい。
(あ、そうか)
俺自身も今、フードを深くかぶっていることを忘れていた。
相手に顔を見せてもらいたいなら、まずは俺が顔を見せないとな。
俺は深くかぶっていたフードを外す。
「一つ、頼みを聞いてもらってもいいか?」
「は、はいっ! 何なりとお申し付けください」
「これからは同じ組織の人間なんだから、お互いの顔を知っておく必要があると思うんだが……いいか?」
「あっ、もちろんでございます!」
彼女たちは俺の要望を快く聞き入れてくれ、深くかぶっていたフードを俺と同じように外した。
これで彼女たちの顔を知ることが出来る……それは良かったのだが、彼女たちのうちの1人の顔を見た俺は一瞬、固まった。
(え、なんで……)
そこには、どういうわけか俺の義妹である琴音がいたのだ。
いや、本当になんでここにいる。
え、ここにいるってことは今までの俺の厨二病全開の発言もずっと聞かれていたってこと、だよね?
黒歴史確定じゃねえかぁぁぁあああああああああああああああ!!!
普段はこんなんじゃないんですよぉ、とか今にも他の4人に言いふらしそうで恐怖でしかないんだが。
「ん……?」
義妹と目が合った。
が、いつもみたいに罵声を浴びせたり、馬鹿にしてきたりしない。
あれ、本当にお前、琴音……だよな?
俺の知っている琴音とあまりにも違いすぎる。
何も言われないのならいいか。
とりあえず他のメンバーの顔へと視線を移動させた。




