10.赤く染まった満月の下で
「皆、準備は出来ているか」
「「「はっ!」」」
俺が先頭に立ち、歩みを進める。
同じ階層で今も戦う音が、剣のぶつかり合う音が聞こえる。
「あいつらが魔女協会……」
中心のほうに近づくと、連中の姿が見えた。
俺たちとは真逆で全身白色の戦闘服。
対立関係のようでかなり良いではないか。
「あぁん? こんなとこにも獲物が沢山いるじゃねぇか」
魔女協会の1人が俺たちの存在に気づき、一瞬で距離を詰めてきた。
一目見ただけで分かる。俺たちのことを完全になめている。
「獲物? 俺たちのことを言っているのか?」
「ハッ! 当り前じゃねえか! 他に誰がいるってんだよぉっ!」
「貴様は相手との実力差も分からぬのか」
「はあ? お前らが俺様より強いってのか? 笑わせんな」
いくらなんでも自分の実力を過信しすぎでは?
今、お前の前には約50人いるんだぞ?
まあ、全員で1人に一斉攻撃を仕掛けるなんてことはしないけどさ。
「では、試してみたらどうだ?」
敢えて挑発する。
「余裕ぶっていられるのも今のうちだぁっ!」
男は日本刀のような剣を手に取り、斬りかかってくる。
だが、俺はその場から一歩も動かない。
右手の人差し指に魔力を集中させる。
漆黒の魔力が人差し指に集まる。
「死ねぇぇぇええええええ!!!」
男は威勢よく叫びながら剣を振り下ろした。
金属音が響く。
「どうした? その程度か?」
「はあ?!」
男はあり得ないとでも言いたげな表情で俺のことを見た。
まあ、そんな顔にもなるだろう。
だって、こいつの渾身の一撃を俺は、人差し指1本で受け止めてしまったのだから。
強固に練った魔力を人差し指に集めたことで俺は敵の一撃を軽々受け止めることが出来たのだ。もちろん、こいつの実力が俺より格下だったからできる芸当ではある。
さすがに強敵相手に同じことをしたなら俺の人差し指は大怪我を負っていたかもしれない。下手したら切り落とされてしまうかもしれない。
「さあ、もういいだろう? 俺たちもお前1人に構っていられるほど暇じゃないんだ」
「クソがぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!」
男は再び斬りかかってくる。が、その刃が俺に到達する前に俺は魔力を込めた拳で男の腹に穴をあけた。
「さあ、次だ」
敵の男を倒した俺は、仲間と共に前へ進む。
「うおぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおおおお!!!」
敵の1人を倒したから他の敵にも気づかれてしまったらしく、次々と敵が襲いかかってくる。
「いないな」
だけど、魔女協会のトップである魔女が一向に現われない。
ここには来ていないのだろうか。
まあ、俺たちが攻めてくるとも思っていなかっただろうし、部下だけをこの階層に配置していた可能性も少なくない、か
親玉を潰さないとこいつらは何度でも俺たちの縄張り近くで暴れまわることだろう。それは避けたい。
「戦場の中心で考え事ぉ?」
ペティがいつものように腕に抱きついてそう言った。
さすがは俺の組織の幹部だ。戦場でも普段通りの姿を見せることが出来るとは、肝が据わっている。
「魔女がいないと思ってな」
「たしかにいないね。魔力感知にも引っ掛からなかった」
「ここには来ていないってことなのだろうか」
「うーん、どうだろう。もっと奥まで探しに行ってみる?」
「ああ、そうだな。一緒に来てくれるか?」
「うんっ、もちろん♪」
他のメンバーも数人連れて行こうかとも思ったが、敵は弱いとはいえ、かなりの数で、皆その場から離れるのは難しそうな状況だった。
というわけで、ペティだけを連れていくことにした。
本当は、ディオンも俺について行きたそうにしていたが、ディオンは魔女協会に憎しみを抱いているようだし、そのトップを目にした際、怒りを抑えられなくなってしまうのではないかと思い、その場に残した。
まあ、というわけで金髪ギャルと魔女探しの旅へレッツゴー!
♢
「見て見てミデン様っ」
「どうした?」
「月が赤いよ!」
ペティが指差す方に視線を向けると、大きな赤く染まった満月があった。
この階層にも俺たちの拠点と同じように月を作った者がいるのだろうか。そうだとしたら、中々に良いセンスの持ち主だ。敵でなければ気が合っただろう。
「あらあら、お客様かしら?」
突如、鈴の音のように美しい女性の声が聞こえる。
声のした方を振り向くと、腰まで伸ばした赤い髪に、ワインレッドの瞳が特徴的な少女が筋骨隆々な男たちを数人引き連れて俺たちのほうへと向かってきていた。
まさか、この少女が…………
「突然邪魔して申し訳ない。あんたが魔女協会の主か?」
敢えて普通に振舞う。
だが、内心、かなりワクワクしていた。目の前にいる今も魔力感知に引っ掛からないけど、確実に強いというのは直感的に感じる。
引き連れている男たちも中々の強さ。
だが、彼女には足元にも及ばないだろう。
「ええ、私が魔女協会の主よ」
「そうか。つまり、あんたが自称・魔女さんか」
「そうかもしれないわね」
何故か彼女は曖昧な答え方をした。
まあ、そんなことはどうだっていい。早く戦いたい。
「魔女の周りの男たちは私が相手をするよ。魔女のほうは任せてもいい? ミデン様」
「ああ、わかった。ぬかるなよ」
「もっちろん!」
ペティは俺に魔女の相手を任せてくれた。
ありがたい。きっと俺が魔女と戦いたいというオーラを出し過ぎていたのかもしれないな。気を付けないと。
「さて、魔女さん」
「魔女さんではなく、私にはソフィアという可愛い名前があります。それと、あなたのお名前も伺っても?」
「ああ、俺は、ミデンだ。それでは、始めようか」
「ええ、始めましょう」
俺とソフィアはお互いにゆっくりと歩み寄る。