1.ただ昼寝していただけ
「よし、まだ誰も起きてないみたいだな」
まだ日も昇っていない早朝、俺――三谷翔悟は誰も起こさないようにゆっくりと忍び足で家を出た。
できるだけ家族の誰とも顔を合わせたくなくて、俺は毎日こうして朝早くに家を出ている。
「はあ……新しい母親は良い人ではあるんだけどなぁ」
静寂に包まれた街で俺は一人でそんなことを呟いていた。
俺がこうなってしまった理由は単純。
ただ家に居づらい。それだけ。
半年くらい前に、俺の父は再婚した。
そして、当たり前だがその再婚した相手と同居することになったわけだ。
そこまでは別に何の問題もなかった。俺自身も新しい母親と早く打ち解けられるように頑張ろう、と思ってはいたのだ。
だけど、一つだけ問題が発生したのだ。
その母親には連れ子がいた。
俺より一つ年下の17歳の女の子。名前は琴音。
見た目はモデルのように整った顔とスタイル。長い茶髪が風になびいている姿がまるで雑誌の表紙のようだったのを覚えている。
あ、言うのを忘れていたが俺は18歳のごくごく普通の高校卒業したばかりの男だ。
とまあ、そんなわけで俺には義妹が出来たわけなのだが、その義妹は初めて会った日からずっと俺のことを嫌っているようだった。
顔を合わせれば罵声を浴びせられた。両親が居ても居なくても関係なしに、だ。
母親は「いつも琴音がごめんね」と謝ってくれて、何度も直接叱ってはいたようだが、その態度が変化することは一度もなかった。
そんな日々が続けば顔を合わせたくなくなるのも当然だろう?
まあ、俺のメンタルが豆腐過ぎただけの話なのかもしれないけど。
「よし、着いたか」
そんな俺が毎日早朝からどこで時間をつぶしているのか気になったかもしれない。それでは、お答えしよう。毎日俺が朝早くから行くのは、ダンジョンだ!
5年くらい前から突如世界中でダンジョンが出現し始めた。
その中では魔物と呼ばれる動物とは違ったバケモノがいたり、地上では見つからないような珍しい物が見つかったりする。
ダンジョンが出現したのと同時に多くの人に魔力というものが発現した。
まあ、魔力があっても鍛錬しないことには魔物を倒せないわけだが。
つまり、ダンジョンというのは力ある者なら皆、向かう場所というわけだ。
ん?
この前まで高校生だった俺がダンジョンに入れるほどの力があるのかって?
そりゃあ、もちろんさ。
俺は毎日鍛錬を続けてきたのだから。
父が再婚してからは鍛錬の時間も伸びたお陰で、一気に成長できたと自負している。その面に関してだけは義妹にも感謝している。
「さて、今日も闇を裂いて敵を討つとしようか」
誰もいないダンジョンの前で俺は一人そう呟いた。
うん、かなりカッコよく決まったと思う。もう少しだけポーズを修正すれば完璧、かな。
そんなことを考えながら俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべながらダンジョンに足を踏み入れた。
♢
「結構深くまで来たな。よし、今日はこの辺で鍛錬しよう」
そんなことを呟いていると、奥の暗闇からズドン、ズドン、と地面を少し揺らしながらこちらへと向かってくる魔物の姿が目に入った。
見た目は熊に近いような姿。だが、5メートル近くはあるように見える。
威圧感も感じる。
鍛錬を怠っている者であれば、その威圧感だけで気を失ってしまうかもしれない。それほどの魔物だ。
だが、その程度じゃ俺を倒すことは出来ないぞ。
「さて、戦闘を始めよう」
俺がそう呟くと、俺の周りを黒い球体が覆う。
そして、わずか1秒もしないうちにその球体が消え去ると、俺の服装がただの遊びに出かける男子学生のような服装から黒いフード付きのコートに黒いブーツ、そしてズボンまで黒に揃えた全身黒色のカッコ良過ぎる服装に変化したのだ。
どうだ、熊の姿をした魔物よ。
「グォッ……」
そうかあまりのカッコよさに見惚れてしまったか。
「グゥォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
俺のカッコいい姿に見惚れていたようだったが、すぐに襲いかかってきた。
「フン、愚かなる者よ。この私がすぐにお前を倒してみせよう。その魂を我が手に掴まれるがいい。その鮮血が今、この世界を染め上げるのだ。見届けよ、我が力の全てを!」
魔力で腕を強化し、その熊の心臓を拳で一突き。
俺の腕は熊の体を貫通し、血しぶきを上げてその魔物は俺に攻撃を当てることもできずにその場で息絶えた。
「フッ、その程度の力では鍛錬にすらならないぞ」
それだけ呟いて、俺は魔物が落とした魔石を取り、さらに奥へと歩みを進めた。
あ、もう気づいているかもしれないけど、俺、中二病です。
中学の頃に発症して以来、18になった今もその症状は消えないままだ。
だが、問題はない。
俺はただの中二病ではなく、力のある中二病。
……つまり、特別な存在なのだ。
そんなことは置いといて、俺はその後も色々な魔物を狩り続けた。
「さすがにそろそろ休憩するか」
気が付けばもう時間は昼近くになっていた。
このまま鍛錬を続けるのも良くないと思い、ダンジョン内に生えている大樹の下で横になって休憩することにした。
「なんだかんだ疲労は溜まっていたんだな。少しだけ寝よう」
♢
「こんなダンジョンの深い階層で昼寝……?」
「この者がもしかすると……」
「ええ、私たちの主として相応しい方なのかもしれませんね」
「こんな危険な区域で昼寝をできるということはそれほどの力を持っているということですからね」
うん?
なんだ?
横になっている俺の前で何人かの女性が話している声が聞こえるけど、これは起きた方がいいのだろうか。
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