第一章4 だいさくせん
決まった…
そう思った、間違いなく。
しかし、トワは大きな失態を犯していた。その後のセリフを一切考えていなかった。「いくぞ」とかでもなんでも言うべきだったのだ
訪れたのはよくわからない、もどかしい静寂だけだった。
「それも元居た世界のあいさつなのぉ?」
___________________________
ロミレア邸をでてから件の町へと三人で向かう。
館から町までは割と距離があるので他愛のない話もしながら向かっていった。
「そういえばセキュアさんはなんであの屋敷で働いてるんすか?」
「えぇ、私は元々貧民の出だったの、両親を幼いころに亡くしてからは生きていくためにやれることは何でもやっていたわ、そっからいろいろあってロメリア様に拾われたの、ロメリア様はあんなに汚らわしかった私を救ってくださった、いわば命の恩人ともいえる存在ですわ」
彼女の職務に対する真摯な向き合いや振る舞いはこのようなところからきているのだろう。そんな過去があったなんて…
あの緊張感のない女主にもいいところがあるんだな。
「それだけじゃなくて、ロメリア様は朝時間通りに起きることもできないし、好き嫌いは激しいし、お仕事のスケジュールも一人じゃできなくて、ほんと…私がいないともうなんにもできないひとで」
「あ、あれ?」
どういうわけか急に頬を赤らめながら主の愚痴を言い始めるセキュアに動揺してしまう二人。
ただその愚痴も単なるできの悪い主に対しての陰口というわけでなく、もっと違う要素を感じるようなものである。
「あ、あはは、セキュアさんが来る前まではもうちょっと自分でもいろいろしていたのですけどね、今は言葉の通りのお姿ですね」
このままでは、歯止めが利かなくなってしまうと察知したのだろうか?愛想笑い交じりでこの主マシンガントークにブレーキをかけたのは、ノクテスであった。
「そうなんだ、あの女主がまじめにしいてた頃を知っているってことはノッくんはセキュアさんより早くあそこで働いてたの?」
「ノッくん…?」
「あーワタシが元居た世界では、名前の最初にくんとかさんととかつけるあだ名って文化があったの、嫌だった?」
「いえっ、あだ名とかつけてもらったことなくて、ありがとうございます、そうです、数か月ですけど、僕のほうが先輩になるんですかね?初めてセキュアさんを見たときはとんでもないのが入ってきたなって思いました」
まぁ、こんなに頼りがいがありそうな人がきたら内部の人からすると焦るものがあるのかな、
そうこうしているうちに町に近づいてきた。
「そういえばあの女主はなんでよく知りもしないワタシをあそこまで推薦したんだろ?」
「そ、それはですね。ロメリア様には…」
「お待ちしておりましたー旅の方々ー」
遠くのほうから一人の少女が現れた。
「ロメリア様から既にお聞きしています、まずはこちらへどうぞ」
どうやら既に連絡はいっていたらしい。言われるがままに案内され会議室と思われる場所へとたどり着いた。
「この度はご足労ありがとうございます。私は、この町の防人をしているアルマと言います。住民の多くは既に避難いたしました」
なるほど、やけに町に近づいたのに静かだったのは避難が進んでいたことが理由らしい。
防人…歴史の授業で聞いたことがある気がする単語だが、この世界では町や組織を守る人のことをいうのだろうか?
「事件の詳細について何かお分かりなことはございますでしょうか?」
「はい…今回の事件の特徴、その多くは正気を失った人間が周りの人を殺害したあとに自殺をしているというものです…そしてこれはおそらく魔の瘴気によるものだということも」
魔の瘴気…現在判明している魔法理論では説明がつかない魔力による効果があるものをそう呼ぶらしい
「ちょっと待てよ!それって町人が町人を殺してるってことだろ?町から離れたって意味がないんじゃ?」
「その点に関しては大丈夫です。この瘴気は町一体にかけられているタイプのものだということはわかりました。そして効力もおそらく洗脳などの類…ただ一つ懸念点があるのです」
「懸念点ですか?」
「はい、今この町には私しかいませんが数日前までこの王国代表…『世界の礎』の一人であるマミ様の重鎮であるオプト様がご来訪いたしたことです、オプト様はまだ幼い身です、今回のこの騒動おそらくオプト様の殺害を試みた組織による犯行だと思うのです」
なんで重鎮に子供を置くんだ、この世界は総じて子供の扱いが雑いなとも思うが、
「なるほどな、その目的なら被害者の多くが子供なのも辻褄はあうな」
「そうなんです、それであなた方にお願いしたいのは犯人の討伐と避難先でのオプト様の保護です、わざわざ他殺に見せかけるようにするということは報復を恐れているとみることもできます、しかし油断はできません、操られた人間も自殺させる徹底ぶりからとことんやるタイプでしょうし」
おそらく操られた対象さえも自殺させるのは魔法をかけられた人物から術者を特定する逆探知対策だろう。だが、無関係な人物までもが巻き込まれるというのはあまり気の良いことではない。
「おっしゃ、じゃあワタシはどっちをすればいい!?撃破!?保護!?」
経緯を聞いていて火が付いたのだろう、食い気味に尋ねた。しかし、さすがは防人である。トワのペースに巻き込まれることなく冷静に答える。
「保護の方には武と魔法に心得があるセキュア様に行っていただきます。奴らはまだ住人が避難していることに気づいていないでしょう、その証拠に瘴気はまだ町を覆っています、必ず敵はここに戻ってきます、残りのお二方にはここに残ってもらって敵を倒すことをお願いしたいです」
やることは決まった、気合十分だ、いまだにこの世界に来てから異世界生活物のようなことをしていなかったので少しワクワクしているトワ、それとは対照的にノクテスのほうはびくびくとしている。当たり前だ、人がすでに何人か死んでいる、もちろんそれは自分たちも例外ではないのは言うまでもない、変にワクワクしている異世界人がおかしいのである。
「あまり時間もありません、さっそく取り掛かりましょう、」
その後簡単な作戦会議後にセキュアさんは避難先へと風のように向かっていった、やっぱり元居た世界とは人間の身体能力も大幅に違うのだな。
なおさら楽しみになった。トワにとっては異世界で初めて自分の隠された力を試すことができる機会になるのだから。
「トワ様、ノクテス様!不明の人物を確認しました。敵が…来ます」
どうやら、アルマの感知能力の射程距離圏内に入ってきたらしい
正面か?はたまた不意を突いて後ろからか?どこからこようが準備万端だった。
だが拍子抜けだった、真正面だ。最も警戒される位置にそいつは立っていた…