第一章2 こんにちは、いせかいさん
目の前が真っ白になった、死ぬ瞬間ってこんなんなんだ。痛いというか熱いな。
あ、死んだあとってこんな感じなんだ。死生観とかはとくになかったけど、ここって天国なのかな?
思ったより非現実的な、、でも現実的な感覚だ。
この感覚が気持ちがいいなぁ、はっきりとわかる感覚。まるで生きていた時と同じよう…
「ん?っんん?じゃない!?死んでない!?なんで!?」
死んだと思った。いや間違いなく死んだ。それは紛れもない事実だった。それどころか、さっきまで血まみれだったはずの服が、赤く染まったはずの服には染み一つもない。もはや刺されたこと自体がなかったかのように傷口も完治していた。
わからないことだらけで動揺してしまいそうだが、いったん冷静になる。どうやらどこかの室内のベットの上にいることは理解できた。やけに気持ちがよかったのはこの寝具の仕業だったらしい。続いてあたりを見渡す。どうやら寝室らしい。家具は整っており、部屋も非常にきれいな点から清掃が行き届いていることがうかがえる。
だがそれ以上に気になることがある。なんだか普段と違う感覚があるのだ。死んだのだから感覚もなにもあるかと言われればその通りなのだが、とにかく違和感がある。
「あ、どうやらお目覚めのようですね。ご容態は問題ございませんか?」
ベットからそう遠くないドアが開き、メイド服を着た女性が声をかけた。
非常に整った顔立ちだ。色白い肌に、左右違う目の色、右は黒く左は白い色だ。髪の色は目の色とは逆になっており、頭の右側が白く左側が黒い。スタイルが非常によく背も高い。着る人を選びそうな大きなリボンを備えたメイド服に痛さを感じる暇さえもないほど完璧に着こなしている。
だが、またこの違和感だ。動いている対象を見たことによってまたこの謎の現象がおきた。
なんだか、でかくね?
この感覚である。このメイドさんの容姿を見るに背は非常に高いのだろう。ヒールも履いているのだからなおさらなのはわかる。だが…
いくら何でもでかすぎる。倍とまではいかなくてもでかすぎる。
そもそも、トワ自体が同年代の女性と比べても背はかなり高い部類なのだ。最後に測ったときは173とかいってたっけか?そうとなればここは巨人の国なんだろうか?こんなにも周りが大きく見えるのはそれこそ幼少期以来だ。なにもかもが無限大に見えた。幽玄トワの全盛期だ。
「大丈夫でしょうか?随分と血液の失われていた上に気も失われていましたから。大急ぎで回復魔法と治療をしたのですが…それでも間に合うか分からないほどの傷でしたので、ひとまず意識を取り戻していただいたようでよかったです」
しまった。メイドさんに気を取られて会話をすることを忘れていた。だが、回復魔法だと?そんなもの暇つぶしで見ていたネット小説やライトノベルくらいでしか聞いたことのない概念だ。気になることが多すぎるがとりあえずまずは、なぜこのような状況になっているのかを聞きたくなった。
「えぇと、容態は大丈夫っす、あなたは…誰ですか?あと、ここはどこなんですか?あと回復魔法ってなんすか?なんでワタシは…死んだはずですよね?」
色々聞いてしまった。コミュ障の悪いところだ。
だが、そんな質問にも淡々と答えてくれる。
「そうですね、まずは私の…自己紹介から始めましょうか…私の名はセキュア・アーマ、ロミレア様の屋敷で使用人として仕えておりますわ、ここはその屋敷の救護室よ」
随分と洋風な名前だ。というか、せきゅあ?ろみれあ?どうやら本当に異世界とやらにきてしまったのかもしれない。
「あなたが死んだとかっていうのはよくわからないわ。いきなり屋敷の敷地内で血まみれで倒れている女の子がいればほっとくわけにもいかないでしょ、回復魔法っていっても私が扱うのは所詮低級魔法よ、あくまで応急措置でしかないわ」
なんのことをいっているのかわからずぽかんとするトワ。そんななにもかもわかっていない様子をみてセキュアは憐みの様子をみせていた。
「まぁよくわからないことがいっぱいあっても無理もないわね。今日はもう夜も遅いからもう寝るほうがいいわ。明日の朝食の時間にでも詳しいことを話し合いましょう、私たちもあなたに聞きたいことがあるので」
わからないことだらけだが、どうやら今この場所は安心してもよい場所といってよいだろう。刺された跡がなくなっているとはいえ、今日はなんだが疲れた。でも……
「すいません、お手洗いってどこですか?」
無性にトイレに行きたくて仕方がなかった。
「この扉を出て左よ、一人で大丈夫かしら?今は明かりが全部消えて暗いからよかったら手前までついていくけど」
「いや、大丈夫っすよ、今日はいろいろありがとうございました。明日また改めてよろしくお願いしますっす」
丁寧なお誘いにお断りをして簡単な感謝を述べた後トイレへと向かう。
「いやだって、トイレまで暗いからついてきてくれるって、ガキじゃないんだから。」
こんなこと言われたの何年ぶりだろう。思い返してみるとセキュアさんは確かにやさしい人だと思う。でも、その優しさはどちらかというと子供に対するやさしさというか…
と考えながら花を摘み終えた後、手を洗いに洗面台に向かう。ついでに傷口がどういう感じに塞がったのか回復魔法の効果とやらをじっくり見てみよう。
鏡を見る。日常でありふれた行動だ。自分が今どのような見た目になっているかを確かめる最もスタンダードな方法だ。だが…
「さぁて、傷口はどうかって…は?はぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああああ!!!!????」
見慣れた自分が映るはず、そう思っていた。だがそこに映し出されていた光景は最もアンスタンダードで、見慣れたはずのないものだった。
さっきまでの違和感はこれだったんだ。
鏡に映っていたトワは同世代と比べると背が高く、手入れのされていない金髪、目つきの悪い目という見慣れた見た目では決してなかった。
映っていた姿はそう、だが、どうみても程遠い見た目だ
幽玄トワは【幼女】の姿になっていたのである。