プロローグ第1/8話「触るな危険」
謎の掲示板との遭遇
「……は? なんだこれ。」
夜桜はスマホを眺めながら眉をひそめた。
仕事に行く前、くつろぎながら少しSNSの巡回をしていた時だった。
妙な広告が気になった。
《今、世界で最もアツい掲示板「樹介8ch」!》
《管理人募集中!?》
(……なんだよこれ。クソ広告か?)
見覚えのないサイト名。
SNSのトレンドにも上がっていない。
(でも、なんか……気になるな。)
広告のサムネイルには、「《※ 触るな危険 ※》」 というスレッドタイトルが表示されていた。
「……こういうの、触るなって言われると触りたくなるんだよな。」
夜桜は、指で広告をタップした。
第一転換:異様な掲示板
画面が暗転する。
「……あれ?」
普通の掲示板なら、すぐにスレッドが表示されるはずだ。しかし、スマホの画面は黒いまま——いや、じわじわと何かが浮かび上がる。
《樹介掲示板 8ch にアクセスしました》
(……ん? ローディング画面?)
そのまま待っていると、画面にスレッド一覧が現れた。
だが、その内容が明らかに異常だった。
▶ 「樹介(異世界)の住人に質問するスレ」
▶ 「力を得られる能力果実、どれが最強?」
▶ 「地球側は見れないけど、暗号通貨は使える?」
▶ 「管理AIがまた暴走した件について」
(……いやいや、なにこれ。完全にファンタジーのノリじゃん。)
夜桜は思わず苦笑した。
しかし、スレッドをよく見ると、どれも信じがたいほどの書き込みの量だった。
しかも、内容が異常にリアルなのだ。
(これ、作り込まれたネタか? それとも……?)
興味を引かれ、スレッドをタップしようとした瞬間——
《あなたの適正を判定中……》
「……え、適正?」
さらに、画面が勝手に動き出した。
【承】試練:異常な適正判定
《適正テスト開始》
《現在のネット履歴・投稿傾向・影響力をスキャン中》
「、、調べられてる?おいおいおい!?何勝手に調べてんだよ!!てか、スマホにそんな機能ないだろ!?」
何だか、やばい感じがする?夜桜はスマホの電源を落とそうとする。
しかし——
《適正判定完了。ユーザー夜桜、管理者権限の候補者として認定》
「……は?」
《正式な「管理者」になるための試験を開始します》
「いや、聞いてねぇよ!!!」
その瞬間——
画面いっぱいに、カウントダウンが表示された。
《カウントダウン開始——5、4、3……》
最大の試練:管理者としての初試練
「待て待て待て待て!!!」
焦った夜桜はスマホを握りしめ、思い切り画面をスワイプした。
——その瞬間。
《緊急アクセス承認——「管理者モード」起動》
目の前の画面が一瞬フリーズしたかと思うと、
次の瞬間——夜桜のスマホ画面が、管理画面に切り替わった。
(……これ、やばくないか?)
見たことのないUI。
通知欄には、謎のメッセージが次々と届いていた。
《管理AI・樹介からのメッセージがあります》
《スレッド削除要請:スレ「人間の管理人は必要か?」》
《利用者:2000万人突破》
(2000万人、だと!?
え、これ流行ってんの!?)
夜桜の背筋がゾクッとする。
(適当な釣りサイトだと思ってたけど、本当に「異常な掲示板」なのか?)
この時、夜桜はまだ気づいていなかった。
この「管理者モード」に入った瞬間から——
彼は、「樹介掲示板」に翻弄される運命。
絶望と覚醒:樹介との邂逅
《管理AI・樹介が接続を求めています》
「……管理AI?」
夜桜が警戒しながらタップすると——
画面に、青白いシルエットが現れた。
《はじめまして、管理者候補・夜桜》
「お、おい、AIが話しかけてきたぞ……?」
《あなたは適正を持つ者として認定されました。
今後、この掲示板を管理する権限を持ちます。》
「……ちょっと待て。」
《これは、あなたの「影響力」と「判断力」を試す場でもあります。
ここでの選択が、あなた自身の未来を左右することになるでしょう。》
「……冗談、だろ?」
夜桜は額を押さえた。
(俺、管理人になっちまったのか……?)
✅ 最終決着:管理者としての第一歩
《あなたは、正式な「樹介掲示板8ch」の管理者候補となりました。》
(……なんだよ、これ。)
最初はただの広告を踏んだだけだった。
それなのに、気づけば「異常な掲示板の管理人」になっていた。
《最初の試練:あなたの初めての管理行動を実行してください》
夜桜は、スマホ画面をじっと見つめる。
「ん〜〜、よくわからんから放置!よし、お仕事、お仕事っと!」
✅電車の広告と冤罪事件
東京の夜、通勤電車の中は無機質な蛍光灯の光に照らされていた。
「あなたも、樹介へ——」
巨大なディスプレイが車両内に埋め込まれ、次世代没入空間**「樹介」**のCMが繰り返し流れている。
広告動画には、**大人気のアイドルグループ『樹介旅団』**が華やかなステージで踊り、観客が熱狂する姿が映し出されている。
スクリーンの中、眩い光の中で歌う彼女たち
♪ Juicy!Juicy!∞ Paradise!
♪ かじるたびに 深く堕ちて
♪ ねぇ、どうして? 触れるほど
♪ キミが遠くなるの…
ステージの照明が激しく瞬き、樹介旅団のメンバーがまるで天女のように宙を舞う。
赤や青、無数のペンライトが揺れ、巨大スクリーンには彼女たちの幻想的な笑顔が映し出されている。
舞うようなステップ、リズミカルなビート。
カメラがメンバーを舐めるように移動し、中央で歌うリーダーがマイクを掲げた。
ハイテンションくん :
「やばっ、これ現地で見たらマジ泣くやつ!」
冷静ツッコミくん:
「わかる、もうバーチャルとか超えてるよな」
ハイテンションくん:
「え、つか、これどうやって撮ってんの?」
冷静ツッコミくん:
「あー、それ俺も思った! 樹介ってさ、動画撮れねえんじゃね?」
ハイテンションくん:
「は?? じゃあこれ何!? どういう仕組み!?」
冷静ツッコミくん:
「いや、公式が特別に作ったやつっしょ」
ハイテンションくん:
「ってことは演出? それとも……未来技術???」
冷静ツッコミくん:
「どっちにしてもスゲーし、どーでもよくね?」
ハイテンションくん:
「たしかにぃぃ!!」
息を呑むようにスクリーンを見つめる大学生たち。
(楽しそうだな……)
夜桜は、そんな彼らを横目に、ため息をついた。
まだ幼かった頃——。
小銭片手にあっちこっちを飛びまわり、料理の匂いが鼻先をかすめる中、祭りの夜に響く音楽が好きだった。
「楽しさ」が満ちているあの空気が。
しかし、今の現実は違う。
彼が数時間前まで立っていたのは、冷たい夜風の吹き荒ぶ屋台のカウンター。
並ぶはずの客は、誰もいなかった。
「すみません、やっぱりキャンセルで……」
用意した食材は、そのままゴミ箱へ。
売上はゼロ。
仕入れた材料代だけが、無情に帳簿へ記録された。
(楽しかった祭りの日々は、もう戻ってこないのか……)
樹介ログイン装置LIM(樹理神モデル)の話題が飛び交う
「おい、“LIM樹理神モデル”、また即完売だってよ!」
「マジかよ!? 発売開始から十秒で売り切れ!? こんなの絶対手に入んねえじゃん!!」
「頼む、誰か売ってくれ……っ! もう俺、金なら出す!! いやマジで!!」
発狂寸前の大学生たちが、スマホを握りしめて絶叫している。
LIMは、単なるVRデバイスとは違う。
液体浸漬、神経リンク、触覚再現——完全に現実と同等の体験を提供する。
まるで「もう一つの現実」に生きることができるのだ。
けれど、手に入らない。
「はぁ……キラキラしやがって……くだらねぇ」
呟いた言葉に、自分の苛立ちが滲んでいた。
電車内の異変
その時だった。
「やめて、痴漢!」
——時が止まる。
気づけば、手首を掴まれていた。
横を見ると、見知らぬ女性が潤んだ瞳で睨みつけている。
「この人が触ったの!!」
(ふざけんな、俺じゃねえ……!!)
だが、誰もが「彼がやった」と確信しているようだった。
裁きを下す者
ミシッ……ミシミシッ……ドスッ、ドスッ……!
異様な足音が車両に響く。
振り向くと、車両の入り口を塞ぐように屈強な女性警官が立っていた。
「変態め!現行犯逮捕!!」
まるで雷が落ちたかのような声が響いた。
夜桜の心臓が凍りつく。
(違う、違う……違うって!!)
喉が張りついて声が出ない。
ただ、周囲の乗客は、スマホ越しに彼を静かに観察している。
彼らの目には「興味」しかなかった。
誰も真実を知ろうとしない。
警官の目は鋭く、職務に忠実そうなその表情は、乙女の敵を決して許さないという強い意志に満ちていた。
(ああ……もう終わったな)
✅ そして、“彼女”は微笑む
彼の視界の端で、一人の美しい女性がこちらを見ていた。
——黒髪に、透き通るような緑の瞳。まるで翡翠のような深い輝きを宿し、それでいて決して揺るがない強さを秘めている。
その瞳に夜桜は一瞬だけ、すべてを見透かされたような感覚を覚えた。
胸の奥が、冷たくなる。彼女は、知っているのか? 俺の運命を——。
透き通る白い肌に、静かな微笑み。人混みの中で、まるでそこだけが異質な空間のように、彼女は立っていた。
まるで、何かを見届けるように——。
その時、彼女の瞳が、わずかに揺らめいた。
そして、彼の人生は、まさにこの瞬間、決定的に狂い始めたのだった。
次回、プロローグ第2/8話「トイレの神様」




