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7 捨てられること

おチビちゃんがペンダントに姿を消せるようになってから、私は前よりも気を張らずに過ごせるようになった。


ライリーとジュリアン以外に誰も来ないと分かれば、おチビちゃんは普通に姿を現し、私と一緒に眠る。

けれど、ルーカスが来ると、必ず威嚇した後、ペンダントに隠れてしまう。


やはり、おチビちゃんは私と同じ。


それにしても、どうして私の体は治らないの?

もう五日も経つというのに、回復の兆しすら見えない。

ルーカスは普段通りの笑みを浮かべているけれど、どこか違和感がある。

きっと、私の体が本人にも伝えられないほどに悪化しているのだろう。


これは、捨てられたのに嬉しそうにしていた私への天罰?


『キュイ?』


私の溜息に気づいたのか、おチビちゃんが小さく首を傾げながらこちらを見つめる。


「……なんでもありませんよ」

『キュ?』

「本当です」

『キュイ……』

「ほら、また夢の中に行ったらどうですか? 」


……どうして寝てくれないの? そんなに見つめられると、申し訳ない気持ちになってしまう……。


ああ、ほら、そんなに見つめるから咳が――


「ケホッ」

『キュイー!』

「……はあそうです。私は今、体調がよくないんです」

『……キュッ!』


私が再び咳き込むと、おチビちゃんはおでこを私にぴたりとくっつけた。

その瞬間、私の体から淡い光が溢れ、それがそのままおチビちゃんの体へと吸い込まれていく。


――え?


おチビちゃんは満足そうに鳴き、私に擦り寄ってきた。

あれ? なんだがとても体が軽くなってる気がします!

今なら、ここから飛び降りられるほどに軽い。


やはり、おチビちゃんはただの生き物ではないのでしょう。


私は窓を開け、そこに腰掛ける。

おチビちゃんは安心したのか、再び眠りについた。


ありがとう、おチビちゃん。


久しぶりにこうして風に当たった気がするけど、それが、こんなにも心地良かったなんて。


前の世界では、ちゃんとした空気を吸っていなかったから、こんなにも空気が美味しいとは思わなかった。


けれど、人生で一番美味しいと感じた瞬間は、雨の日に父親に捨てられた時。


あの日まで、私は全てを背負わされていた。

悪者にされ、兄弟との絆を引き裂かれ……。


けれど、捨てられた瞬間、全てのしがらみが消えた。

その解放感が、たまらなく心地よかった。


あんなにも、体が熱くなるほどに快感を覚えるとは思わなかったけれど、『捨てられて』分かったことが一つある。


それは『捨てられるほど良い』ということを。


だから、拾われるのは大嫌い。


だって、捨てられるのが悪いのだから、拾ってしまったら捨てた意味がないでしょう?


なのに——どうして、私は拾われたの? どうして、人が集まってしまうの?


窓に腰掛けたまま、ぼんやりと考えていると、突然、体が浮かび上がった。


「ライラ! いったい何をしようとしているのです!」


なんとなく予想はしていたけれど、案の定ルーカスだった。


「外を見ていただけですけど」

「だとしても、そんな危ない場所に座るのはやめなさい」


ルーカスは私の体をしっかりと抱え、窓から引き離す。

まるで、もう二度と手放さないかのように。


……本気で、私を縛るつもり?


けれど、どうせ孤児院にいる以上、逃げられないことは分かっているから逃げるつもりもない。

……待って、おチビちゃんがまだ姿を現したままだった!


「……! ライラ、この動物は……」


ライリー、ジュリアンごめんなさい。

気付かれてしまいました。


「……」


何も言えずにいると、ルーカスは私を降ろし、部屋の外へと追い出した。


どうして私が追い出されなきゃいけないの? それに、おチビちゃんに何かをしようとするのなら私が許さない。


「どうして私を追い出すのですか? それに、あの子に何かしたら……」

「大丈夫です、少しだけここにいてください」

「まっ……」


私の言葉も聞かずに、ルーカスは部屋の扉を閉めた。


はあ、病み上がりだった私を放り出すなんて、残酷な人生。

まあいいでしょう。


今はおチビちゃんの身に何か起きていないかを確認しなければ。


私は背中を扉に預け、耳を済ませる。

その時、階段を上がる音が聞こえた。


「ライラ? そんなところで何をしてるの?」


ジュリアンとライリーが、不思議そうにこちらを見ている。

私は、すぐに人差し指を口元に当てた。


「しっ、今、私の部屋にルーカスがいるのです」

「なっ、父上が!?」

「ライリー、静かにしてよ!」

「す、すまない。それにしても、やはり気付かれてしまったか……」

「でも、どうしてライラがこんなところに立ってるの? 体は大丈夫なの?」

「ええ、今のところは。ルーカスにおチビちゃんを見られてから、急に部屋の外に出るよう言われたのです」


もしかして、おチビちゃんはルーカスにとってよくない動物だったとか?

アレルギーとかだったら分かるけれど、そんな理由で追い出すとは思えない。


それにしても、部屋の中が静かすぎる気がするのだけどいったい、中で何をしているというのでしょう。


ライリーとジュリアンも同じことを思ったのか、ライリーがそっと扉を開けた。


私たちは三段重ねのようにして、部屋の中を覗き込む。


「ライリー、もっとずれてよ」

「仕方がないだろう、私も見えないのだ」

「二人とも静かにしてください」


二人が黙り込むと、部屋の中から微かに声が聞こえた。


「……どうして、君のような者が……いる?」


うーん、聞き取りずらい。

ちょっと待って、二人とも聞こえないからってそんなに身を乗り出したら開いてしまいます!


『俺の契約者だからな』


しゃ、喋った?

空耳とかではないですよね? 今、おチビちゃんがはっきりと喋った気がするのですが?

というか、オスだったんですね。


「「しゃ、喋ったー!」」


ライリーとジュリアンの声と同時に、扉が全開に開き、私はそのまま前のめりに倒れ込んだ。

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