6 ペンダント
おチビちゃんが私の部屋に現れてからというもの、ライリーとジュリアンが長居するようになった。
もともと毎日のように私の部屋に訪れていた二人だから、単に滞在時間が増えただけなのだけれど。
それから三日が過ぎた。
私の体は相変わらず重く、自由に動かすこともままならない。
日に日に頭痛もひどくなっていく。
ルーカスが時々魔法で治療をしてくれるものの、どうにも控えめすぎる。
あまりにも控えめで、治療されている実感が全くないほどです。
一方、おチビちゃんは今日も元気に部屋を飛び回っている。
広い部屋のおかげで物が散乱することはないのが救いだけれど……。
この孤児院の部屋がこれほど広いとなると、相変わらず資金の出どころが気になってしまう。
「ラジュリー、今日もリンゴを持ってきてあげてもいいよ!」
ジュリアンは飛び回るおチビちゃんを目で追いながら言った。
ちなみにおチビちゃんの名前は『ラジュリー』と決まったけれど、私は相変わらず『おチビちゃん』と呼び続けている。
何故かって? それはおチビだからです。
私がそう思っていると、おチビちゃんが勢いよく飛びついてきた。
私はそれを受け止め、そっと抱きしめる。
「おチビちゃん。そんなふうに飛びつくのは私ではなく、ライリーにしてくださいね」
『キュイ!』
私の言葉を聞いたライリーは、ぎょっと目を見開き、おチビちゃんを睨み付けながら立ち上がった。
「ラジュリー! そこを退け! ライラを抱きしめていいのは私だ!」
将来、必ず美しい女性になるであろうライリーがこんな調子では、本気で未来が心配になる。
ライリーのことだから、婚約を申し込まれても即断るだろうけれど……。
ジュリアンだってそうだ。
彼もまた、周囲の女の子たちが密かに想いを寄せるほど整った顔立ちをしているし、可愛らしさもある。
なのに、素直じゃないせいで苦労する未来が見えてしまう。
「ライリー! ラジュリーをいじめないでよ! それに、ライラはまだ病み上がりなんだから、悪化したら大変だろ!」
「そ、そうだな。すまない、ライラ」
「別に構いません」
病み上がりかどうかすら分からないほど体が重いのが問題です。
一番残念なのは、動き回れないこと。
突然襲われたこの苦痛のせいで、逃亡すらできないだなんて泣きそうです。
とはいえ、もう孤児院から抜け出すことは諦めた。
いずれ私を引き取ってくれる人間が現れたら、隙を見て逃げ出しましょう。
「それよりも、いつルーカスおじさんに気付かれるか考えた方がいいんじゃない?」
「別に隠す必要はないんじゃないか? 父上はお優しい人だし、ラジュリーを追い出すようなことはしないと思うが……」
「はあ、分かってないね、ライリーは。ルーカスおじさんはともかく、他の子たちに知られたら面倒なことになるでしょ?」
ジュリアンの言い分はもっともだ。
何十人もいるこの孤児院で、おチビちゃんの存在が知られたら、本当に大変なことになる。
それに、未だおチビちゃんの正体が分からないまま他の子どもたちと接触するのは、危険すぎる。
私は、腕の中のおチビちゃんをじっと見つめる。
おチビちゃんはそれに気付き、首を傾げた。
きっと、母親とはぐれてしまったのでしょうね。
あるいは、私と同じように捨てられてしまったのかもしれない。
もしそうなら、私と同じね……おチビちゃん。
「なら、どうすればいいというんだ? ライラの部屋にいる以上、いつかは見つかるぞ?」
「そこが一番の問題なんだよ。ラジュリーがどこかにしまえればいいのに」
どこかにしまう……か。
おチビちゃんが突然現れたのなら、どこかに身を潜めることができるかもしれません。
すると、おチビちゃんは私の腕の中からふわりと飛び上がり、翼を大きく広げた。
その瞬間、眩い光が辺りを包み込む。
私は咄嗟に目を閉じた。
「な、なにが起こったの!?」
「お、おい! あれを見ろ!」
ライリーの言葉で目を開けると、空中には赤い光を放つペンダントが浮かんでいた。
今度は何? どうしてペンダントが……ってまさか、おチビちゃんが私たちの会話を聞いて、自ら姿を変えてくれたということですか?
だとしたら、この子、天才なんじゃないかしら。
ペンダントがふわりと落ちてくると、ジュリアンは慌ててそれを受け取った
「ぺ、ペンダント? まさかラジュリーが、姿を変えてくれたの?」
「これは凄いな……」
すると、ジュリアンが持っていたペンダントが再び光を放ち、そこからおチビちゃんが飛び出した。
なるほど、ペンダントに身を潜められるから安心して、ということですね。
『キュイ!』
「君ってやつは! 本当に賢いんだから!」
うん、本当に賢いと思う。
でも今は、おチビちゃんにスリスリしているジュリアンが可愛いすぎて、鼻血を抑えることしか考えられない。




